私の自分勝手な想いがギニヴィアの腹に届き、結婚して数ヶ月でギニヴィアは身籠った。10月後に産まれて来た子は、確かに私の子なのだということが一目で判る程、私にそっくりな容姿の健康な男児だった。
ライオネル、と名付けた待望のネグリタ聖騎士爵家の跡継ぎが生まれて、5年の月日が経った。
「久しいな、ギニヴィア」
「・・・お帰りなさいませ。ご無事で何よりです。・・・お疲れのご様子ですね」
遠征から戻り、夜も更けてから、久しぶりに実家に戻ると、ギニヴィアは寝台の上で本を読んでいたようだ。
私が部屋に入ると、彼女は驚いた顔をして、読んでいた本を置いて寝台から降りた。
夜着から少し見える胸元と、下ろした見事な長い黒髪と、その艶やかな髪で半分隠れたほっそりとした首筋が艶かしい。久しぶりに愛しい女を目にした興奮が、体中を駆け巡った。
この場で押し倒して、髪を手で梳きながら白い首筋と胸元をきつく吸って、自分のものだという所有の痕をいくつも付けて、夜着を乱暴に剥がして、豊かな胸にむしゃぶりつきたい。
早く、犯したい。早く、自分のものを、ギニヴィアの中に……。奥まで何度も入れて、確かに私のものなのだという証を、その体に放ちたい。
溢れる欲望をどうにか抑える為に、私は視線を彼女から逸らせて深呼吸をした。
「ああ、戦状が思わしくなくてな。長い間、留守にしてすまなかった」
「いいえ。ご心配なさらずに。城へはいつお戻りになられますの?」
ギニヴィアはいつものように、私の為に葡萄酒を用意してくれた。
テーブルの上に置かれたグラスに口を付ける。誘惑的な色と香りで深く辛く、彼女と出会った7年前の初夏の夜の、あの切ない思いを髣髴させられる余韻が口の中に残った。
成熟した葡萄酒は愛に似ている、などと言ったら、女を賞賛するのが趣味の私の親友が、大喜びするに違いない。
「明後日の夕方には発つ」
私が短く答えると、ギニヴィアは静かに私を見詰めた。
「明日は一日中こちらに?」
久しぶりに顔を見て、その琥珀色の美しい瞳を見詰めると、自分がこの女にどれだけ惚れているのかを思い知らされる。
報われない想いに、胸が痛かった。
「・・・ああ、長いこと帰って来ていなかったからな。また暫く家を空ける事になる」
上着を脱ぎながら言うと、ギニヴィアは少し俯いた。長い睫毛が影を落とし、明かりに照らされた滑らかな頬も美しく、濡れた唇はまるで私を誘っているかのようだ。
そのふっくらとした柔らかな唇に、吸い付きたい。
そっと唇を舌でなぞって、優しくついばんで、深く舌を合わせて……。
私は、ギニヴィアに口付けることを常に我慢していた。
口付けを、心を許していない相手とすることは、苦痛でしかないのだと知ったからだ。
ギニヴィア以外の女を抱く時も、唇を合わせることは決してしなくなった。女が私の唇を吸おうとすれば、それを拒否する。ギニヴィア以外の女と唇を合わせても、不快なだけだということを、彼女と結婚して知った。
結婚の誓いの口付けをした時に、ただ唇を軽く合わせただけで、今までの何もかもがどうでも良くなる程の驚くべき幸福と快感を得た。
結婚式以来、ギニヴィアを不快にしてしまうのが怖くて、ずっと口付けることが出来なかった。
ギニヴィアが息子を身籠っていた間は、初めての妊娠に大きな不安を抱えた為か、彼女は私を頼りにしてくれた。
それが嬉しくて堪らなかった。心身共に不安定なギニヴィアが、私が側にいると安心すると言ってくれたことが、死ぬ程に嬉しくて、いつの間にか調子に乗って口付けをしていた。すると驚いた事に、ギニヴィアは自ら私に口付けを返してくれたのだ。たったそれだけで、愚かな私は、もういつ女神の御許へ行っても悔いは無いと思った。
まるで、彼女が私を愛してくれているかのように感じて、ギニヴィアが息子を身籠っていた間、私は夢の様な幸せな時を過した。
無事に息子を産んだ後は、「子を身籠っていて不安だろうから」と理由を付けて抱きしめることも口付けることも出来なくなった。理由が無ければ、私は妻に思いどおりに触れることさえ出来ない。
ギニヴィアが次の子を身籠れば、又、あの夢の様な時を過せるのだろうか?
そう思うと、早く彼女を孕ませたかった。
しかし、もし身籠った子が双子の男児であったならば?
そうしたら、私は一生、ギニヴィアを抱く理由を失う事になる。
今は、私が屋敷に泊まる夜は「性欲の処理をするのが妻の仕事だから」と言い包めてある。ギニヴィアは私を拒みはしないが、孕ます為に中に精を出すこともしないのに彼女を抱くことを、非常に不満に思っているということは、良く心得ている。
あたりまえだろう。娼婦の様な扱いを受けていると、ギニヴィアは私を恨んでいることだろう。不憫だとは思うが、どうする事も出来ない。
ライオネルが生まれてから、もう5年以上も、私はギニヴィアを失う可能性が怖い為に、彼女の中に精を放っていない。
ギニヴィアは、それを不信がっている。
彼女は、早く次の子を、と私を急かす。私が結婚当日に彼女と約束したように、3人男児を産んで、早く義務から解放されて自由になりたいのだろう。
ギニヴィアが、3人男児を産んだら、私は、二度と彼女を抱くことが出来ない。
……きっとギニヴィアは、私と顔を合わせてもくれないだろう。彼女の義務が終われば、私達の関係も終わりだ。彼女は実家に帰ってしまうかもしれない。
そろそろ次の子を考えなければならないことは解かっているが、次にギニヴィアが産む子が、双子の男児であったら、という低い可能性が怖くて、どうしてもギニヴィアの中に精を放てない。
本当は中に放って孕ませたい。ギニヴィアが自分のものだという証を示したい。ギニヴィアを全部私のものにしてしまいたい。
「・・・ライオネルは、あなたにお会いできるのを、いつかいつかと楽しみにしています。明日は、たっぷり時間を取ってやって下さいませ」
「ああ、そのつもりだ」
息子は可愛い。
私にばかり似てギニヴィアに少しも似ていないのは残念だが、それでもギニヴィアが10月も腹の中で育んでくれたのだ。……他の誰でもない私の子を。可愛くないはずがない。
ライオネルは、ギニヴィアが私のものであるという生きた証だ。健康で、賢く、聞き分けも良く、将来はきっと素晴らしい騎士になるだろう。
私にそっくりの息子を、ギニヴィアが可愛がってくれることが嬉しかった。
彼女が息子を抱きしめているのを見ると、まるで自分がそうして貰っているかのように思えた。
ギニヴィアに素直に懐く息子を見ると、自分が出来ない事をしている息子に少々嫉妬を覚えたが、二人が一緒にいるのを見るだけで、幸福感に胸が温かくなった。
ギニヴィアは、自分にもワインを注いで一口飲んだ。その姿に私は見入った。ギニヴィアは、仕草の一つ一つが美しく、時折私は黙ってぼうっ彼女に見惚れてしまい、彼女に不信そうな視線を向けられる。ふと、ワイングラスを持ったギニヴィアの白い手が、随分と小さく思えた。
彼女の美しい手は、こんなに小さかっただろうか?
顔をこっそりと覗き込むと、少し儚げになったような気がする。私はそう思うと、酷く動揺した。
私の所為で心を病んで、寝込んでしまうなどという事はないだろうか……?
カミュー侯爵家の息子を愛しているのに私に無理やり抱かれて、酷く辛い思いをしている。
解かっている。
私が自分勝手なのだということくらい。
自分勝手だと解かっていても、私はギニヴィアを手放すことなど出来ない。
……ギニヴィアは、私のものだ。
手放しなど、するものか。
「・・・少し、痩せたか?」
思わず小さく言うと、ギニヴィアは目を瞬かせて私を見た。
「・・・・・・いいえ、あなたに似て発育も良く、健康にお育ちですわ」
ギニヴィアの答えに、彼女が何を言っているのか一瞬解からなかった。ギニヴィアのことではなくライオネルの事を言っているのだと勘違いしたらしい、と理解をして、苛立った。
「ライオネルのことではない。お前のことだ」
「え?わたくし・・・?」
驚いたように目を丸くするギニヴィアを見て、益々苛立ち、手にしていたワインを呷った。
「なんだ、何故そんなに驚く?」
「いえ・・・あなたがわたくしを気に掛けて下さるなんて・・・。もちろん、あなたの子を産む体だからだとは、承知していますけれど・・・」
その、私に対する厭味なのであろう言葉に、私は自嘲した。
「・・・妻を気遣うのが可笑しいか?」
私が負け惜しみを言うと、ギニヴィアは私を嘲るように笑った。
「・・・今まで、妻として気遣って下さったことがありまして?」
私は胸が酷く痛んで返す言葉も見つからず、乱暴にワイングラスを置いた。
「もうよい。湯を浴びて来る」
そう吐き捨てて、寝室から繋がった湯浴み場へ向った。
胸が張り裂けそうな程に痛くて、絶望する程に悲しかった。
欲しいものが手に入らない子供のように、ただ悲しくて憤慨して途方に暮れた。
私は生まれて此の方、欲しいものが手に入らなかったことなど、一度もなかったのだ。
だから知る由もなかった。望んだものが得られない悲しさも憤りも絶望も。
ギニヴィア以外は、全て望めば手に入った。
ギニヴィアも、結婚という縄で縛って無理やり手に入れた。
そうすれば、きっと自分は満足すると思ったのだ。
抱いて無理やり自分のものにすれば、きっとそれで満足するだろうと思ったのだ。
愚かなものだ。ただ無理やりに抱くだけでは満足せずに、ギニヴィアの心さえもが欲しくて、それを手に入れられない虚しさが日に日に増していくなど、思いも寄らなかった。
どうしたら、ギニヴィアの心を手に入れられるのだろうか?
どうしたら、私を見てくれるのだろうか?
どうしたら……私を愛してくれるのだろうか?
湯に浸かりながら、ふと、己の目から熱いものが流れ出ているのを感じで、私は湯で顔を洗った。
私は、お前に愛されないのが悲しくて一人涙を流すような、みっともなく情け無い男なのだと、頼むから愛してくれと、懇願して目の前で泣いて見せたら、愛してくれるだろうか?
そんな馬鹿な事を考えて、自嘲した。
そんな事をしたら、軽蔑されて、益々嫌われるだけだろう。
愛していると言うのならば、解放して下さい。
そう言われたら、どうするつもりだ?
ギニヴィアに一生会えないのならば、死んだ方がましだ。
あの声を聞けないのならば、あの瞳を見詰められないのならば、あの肌に髪に触れられないのならば、生きている価値など見出せない。
王に忠誠を立てて国を守る騎士達の長だというのに。
守りたいのは国ではない。
守りたいのは妻と息子なのだ。
この命を捧げたいのは王ではない。
私が命を捧げたいのは、ギニヴィア、お前なのだ。
愛している。
お前をずっと愛して来た。
もういい加減、そう白状して、許しを請いたい。
愛していると言うのならば、解放して下さい。
きっと、お前はそう言って、私を置き去りにして、あの男の元へ帰って行くのだろう。
お前を失って、私はどうやって生きて行けば良いのだ?
お前に出会う前は、私はどうやって生きていたのだろう?
お前に恋をしてしまった私は、この感情を知らなかった日々には戻ることが出来ない。
ギニヴィアを失うことなど出来ない。
手放すことなど出来ない。
愛していると言うことなど、決して出来ない。
絶望した気分で湯浴みを終えると、私は何も言わずに、努めて何も考えずに、寝台で横になっていたギニヴィアの上になった。
義務だから、そう言い聞かせてある。
だから、ギニヴィアは私を決して拒みはしない。
美しく優しい彼女を傷付けないように。
もう十分傷付けているのだと解かっている。
だから、せめて優しく。出来るだけ優しく。
いつもどおりの手順で。
彼女が嫌な思いを出来るだけしないように。
そっと……。
ただ彼女のその完璧な肢体を眺めるだけで、私のものは、はち切れんばかりに大きくなり反り上がる。たとえ、彼女が憂いを帯びた顔をしていても。
本当は、お前の全てが欲しい。
もっと強く抱きたい。
めちゃくちゃにしてしまいたい。
この想いを、私の愛を、受け止めて欲しい。
衝動を抑えて、私はギニヴィアの豊かな胸に優しく触れた。
全体を丁寧に撫でて、頂をそっと摘むと、ギニヴィアはびくりと体を振るわせた。
口に含んで舌で転がすと、それは私の口の中で硬く形を変えて、ギニヴィアが感じているのが分かった。
「あっ・・・ん・・・・・・」
堪えるように短く漏れる吐息だけで、私は堪らなく興奮する。
この声を聞くだけで、私は達することが出来る。
本当は、もっと聞きたい。
もっと甘い声を上げさせて狂わせたい。
だが、これ以上傷付けたくなどない。
ギニヴィア……。
お前の心が手に入らなくとも。
お前の体の全てを私のものに出来なくとも。
お前の中に、自分のものを埋めている時だけは、お前が私のものになったような錯覚が出来るのだ。温かいお前の中が私を包んで、まるで、お前の心が私を包み込んでくれてるような錯覚をするのだ。
笑える程に自分勝手な錯覚だ。
無理やりに犯しているだけだというのに。
お前は我慢をしているだけだというのに。
そっと滑らかな脚を撫でる。
ギニヴィアの体は、何処も彼処も柔らかくて温かくて、滑らかだ。その全てが愛しくて堪らない。体中に強く口付けて、私のものなのだという証をその肌に残したい。
「エクトル・・・」
「・・・なんだ?」
急に名を呼ばれて、驚いて愛撫を止めて、不安な気持ちでギニヴィアを見詰めた。
今まで、行為の最中にギニヴィアが私の名を呼んだことなど、一度もなかった。
ギニヴィアは泣きそうな顔をしている。
胸が、痛い。
苦しくて、息が出来ない。
頼むから、そんな顔をしないでくれ。
「・・・あなたが戦の前後に抱くのは、どんな方ですか?」
「どういう意味だ?」
唐突な質問に、私は全く意味が理解出来なかった。苦しく立ち上がった己のものを無意識に摩りながら、ギニヴィアの台詞を頭の中で繰り返してみた。
戦の前後に抱くのはどんな女か、だと?
意図がまるで解からない。ギニヴィアは、緊張した面持ちで私を見詰めている。
「あなたは一度だって、わたくしを戦の前後に抱いて下さったことがありません」
「・・・何を言っているのだ?」
私はギニヴィアの台詞に、益々混乱をした。
「・・・ただ、どんな方なのか聞いてみたくて。あなたが欲する女は、一体どんな女なのかと。戦に出る前に抱きたいのは、死ぬ前に抱きたい一番抱きたい女。戦から帰ってきて抱きたいのも、生きて帰ってきて誰よりも一番に会って抱きたい女、なのでしょう?そう騎士の方から聞きましたわ」
ギニヴィアが切羽詰ったように言い、私は未だ彼女の意図を理解出来ないながらも、頷いて見せた。
「そういうものだろうな」
確かに、戦いの前後は特に、ギニヴィアを想像しながら熱に浮かされたように激しく娼婦を抱く。
ギニヴィアが乱れて、私を求めるのを想像しながら。そんなことは、決して現実では起こらないと解かっていながら、もう何年も同じ妄想をし続けている。
「決してわたくしではない。・・・解かっていますし、それを責めたり意見したりなどいたしません。ただ、どんな女なのか知りたいのです」
どうしてギニヴィアが急にそんな質問を私にするのか、全く解からないが、真剣な顔の彼女に、私は正直に答えた。
「・・・戦の前後に抱くのは、心を少しも留めていない娼婦達だ」
そう言いながら、自分の言葉に胸が痛くなった。何故、こんな情け無いことをギニヴィアに告白しているのだろうか。私は居た堪れなくなって、自棄になった。
もう、どうとでも思ってくれ。
お前が私の事を軽蔑して汚らわしく思っていることなど、良く解かっている。
愛する女に、お前が愛してくれないから、お前を想像しながら他の女をお前の代わりに抱いて自分を慰めるのだ、などと、情けないことを告白せねばならぬとは。
これ以上惨めなことがあるだろうか。
「・・・そうですか」
ギニヴィアは小さく静かに、そう呟いた。
「何が言いたいのだ・・・?」
私が情け無い顔でギニヴィアを見ると、彼女は私に軽蔑の眼差しを向ける代わりに、声も無く涙を流していた。私は彼女の涙を見て狼狽し、その美しい頬を濡らす涙をそっと拭った。
ああ、どうしてなのだろうか。
どうして、私はギニヴィアを苦しめて泣かすことしか出来ないのだろうか。
こんなにも、愛しいというのに。
私は、この心を彼女に捧げているというのに。
ああ、そうだ、この命も彼女に捧げてしまおう。
もう、私は絶望で死んでしまっても良いから、彼女を解放しよう。
そうすれば、私もこの苦しみから解放される。
もう、終わりにしよう。
ギニヴィアを、私の手から自由に。
好いた男の元へ、帰してやろう。
「・・・わたくしを、そんなにお嫌いですか?」
ギニヴィアの震える唇から放たれた言葉に、私は意味を理解することが出来ずに彼女を見詰めた。
「お前を嫌う・・・?」
「好いた女なら構いません。ですが、心を留めもしない娼婦よりも、わたくしは価値がありませんか?」
どういう意味があるのかは理解出来なかったが、真実と正反対の彼女の言葉に、思わず声を荒げて否定した。
「何を言う!そんなはずがないだろう!」
そんなはずがない。
お前は、私の全てなのだ。
お前に価値が無いと言うならば、価値が無いのは私の命そのものだろう。
お前に、この命はくれてやると決めたのだから。
「では何故!? どうして、わたくしを抱いて下さらないのです!! 嫌っているからでしょう!! もう、結構です!!・・・もう、十分ですわ!! ・・・もう・・・十分・・・もう・・・・・・」
取り乱して叫んで泣くギニヴィアを、私は信じられないものを見るような思いで見詰めた。
こんなに感情を剥き出しにしたギニヴィアを見たのは、初めてだった。
彼女が何を言っているのか、全く理解が出来ない。
抱いて下さらない、だと?
まるで、私に抱かれたいとでも言っているようではないか。
一体、どういう意味なのだ?
「・・・一体、何が言いたいのだ、ギニヴィア? ・・・・・・私を嫌っているのは、お前の方だろう?」
私は、毎日だって、お前に会いに来てお前を抱きたい。
本当は、戦の前後だって、自分の欲望に素直に従って、お前をめちゃくちゃに抱いてしてしまいたいのだ。
だが、そんなことが、どうして出来ようか?
優しく抱くだけでも嫌悪されているのに、獣のように欲望をさらけ出して本能のままに抱くなど、出来るはずがない。これ以上、お前を傷付けたくなどない。
「何を仰るのですか!!」
ギニヴィアはキッと私を睨んだ。
涙で濡れて怒ったギニヴィアの顔は、あまりの美しさに迫力さえあった。
「・・・お前はいつだって、私に抱かれて辛そうに嫌そうにしているではないか。・・・何度も泣いたではないか。今もそうやって、私の所為で涙を流しているではないか!」
ギニヴィアの美しさに気後れしながらも、私が声を荒げて言うと、彼女は酷く驚いた顔をして反論をした。
「それはあなたが・・・あなたが、少しも、わたくしに夢中になって下さらないからでしょう!? 少しもご自分をさらけ出して下さらないから!!」
その、あまりに予想外の言葉に、私は暫し何も言えずにギニヴィアを見詰めた。
「どういう意味だ・・・? ・・・そんな、まさか・・・お前は・・・まさか、私を嫌っているわけではないのか?」
ギニヴィアの台詞に、私が唖然としていると、ギニヴィアが自嘲のような笑いを見せた。
「馬鹿な女と、笑って下さって結構ですわ」
心臓が、高鳴った。
まさか、そんなはずが無い。
何を期待している?
愚かな事を。
まさか、ギニヴィアが私を許してくれるなどと思っているのか?
違う、それはない。
そうか、だから、馬鹿な女と笑え、と言ったのか。
許せないが、私を嫌悪しているわけではない、という意味か。
まさか、そんな風にギニヴィアが思うようになってくれていたとは。
「・・・いつからだ?」
「何がです?」
「いつから、私が嫌でなくなったのだ? あんなに嫌がっていたではないか・・・」
自分の口から出る言葉さえも、聞いていて夢のようだった。
……私は、ギニヴィアに嫌悪されていないのだ。
「それこそ、いつです? いつ、わたくしがあなたを嫌がりましたか? 初めにわたくしを拒絶したのは、あなたでしょう!?」
「拒絶?」
「跡継ぎさえ産めば、好きなようにして良い、外に恋人を作って良い、などと!!」
悲鳴のような私を責めるギニヴィアの声に、私はもう何も考えられなかった。
「・・・・・・それは、お前が・・・好きでもない男の子供を、産まなければならないことが・・・辛いだろうから・・・」
己の口から漏れる言葉を、まるで他人が喋っているかのように聞く。
ギニヴィアが、真っ直ぐな琥珀の目で私を見詰めている。
私は、一体何をしてしまったのだろうか。
私が酷く愚かで、酷く間違っていたことは確かだ。
彼女をこれ以上傷付けまいと思ってして来た行為は、彼女をより一層傷付けていたのだ。
優しく聡明なギニヴィアは、たとえ私を恨んでいても許せなくとも、歩み寄ろうと思ってくれていたのだ。それを私は、理解しようともせずに突き返したのだ。
「・・・・・・まさか、わたくしを気遣って?」
ギニヴィアは、唖然とした顔で私を見詰めた。
「・・・そうだ。・・・お前を傷付けるつもりはなかった。・・・戦の前後にお前を抱かないのも・・・お前を傷付けたくないからだ・・・」
私は気が抜けたように自白した。
「どういう意味ですの?」
「・・・お前は、その辺の女達と違うだろう。・・・なんだ、その・・・戦の前後は気が立つのだ。・・・だから、どうしても、落ち着いて優しく抱いてやることなど出来ない。・・・だから、どうでもいい女を抱く」
私の言葉に、ギニヴィアは驚いたように目を瞬かせた。
「・・・まさか、あなたがご自分をさらけ出してわたくしを抱かないのも、わたくしを気遣ってのことですの?」
「・・・ああ。枷をはずして抱いたら、お前に酷い苦痛を与えるだろうから・・・。二度と私に抱かれてはくれないと思ってのことだ」
どこでどう間違えて、ギニヴィアを余計に苦しめていたのだろうか。酷い後悔に、彼女の顔を見ていることさえ出来なくなって顔を背けた。
「・・・どうして? どうして、そんな・・・」
「お前が大切だからだろう」
「そんなの・・・そんなの嘘だわ!!」
ギニヴィアが声を荒げて言った言葉に、私は彼女の顔を真っ直ぐに見て叫んだ。
「嘘なものか!!」
互いに興奮した顔で真っ直ぐに見詰め合うと、色々な感情が混ざり合わさって、酷く心が混乱した。
「・・・わたくしを嫌っていらっしゃるのではないの?」
その言葉に、私は首を振った。情けなさに涙が出そうだった。
「・・・・・・嫌ってなど、いるものか・・・」
自分の台詞を噛み締めて、今一度、ギニヴィアを真っ直ぐに見詰めて繰り返した。
「嫌ってなどいるものか」
「そんな・・・では・・・・・・きちんと抱いて下さい。・・・あなたのお好きなようになさって。本当のあなたを見せて下さい」
ギニヴィアの台詞に、驚いて目を見開いた。
抱いてくれ?
ギニヴィアが、抱いてくれと、この私に頼んでいるのか?
信じられなかった。
ギニヴィアが、私を受け入れてくれるのだ。
私の好きなように、本気で抱いて良いと。
そう言っているのだ。
好きなように……?
「・・・・・・今度こそ本当に、嫌いになるかもしれないぞ?」
情け無い顔でギニヴィアを見詰めると、彼女は優しく微笑んでくれた。
ギニヴィアが、私に微笑んでくれたのだ。
「なれるものなら、もうとっくの昔になっていますわ」
その台詞に、涙が溢れそうになって、無理やりにどうにかそれを堪えた。
はにかんで微笑むギニヴィアの表情に、私は彼女を愛しく見詰めて抱きしめた。
「ギニヴィア・・・」
耳元で名を囁き、耳朶を甘噛みすると、ギニヴィアは息を呑んだ。
「あっ・・・エクトル・・・・・・あっ・・・ん・・・」
ギニヴィアが甘い声で私の名を呼ぶのに驚き、顔を覗くと、彼女は恥ずかしそうに頬を染めた。
・・・駄目だ、耐えなければ。
名を呼ばれただけで達してしまっては、流石に情けない。
だが、なんという快感なのだろう。切なげに名を呼ばれるだけで、全身が甘く痺れる。
「・・・ギニヴィア・・・お前がそんなに甘い声で私の名を呼んでくれたのは、初めてだな? ・・・もう一度、名を呼んでくれ。」
「・・・エクトル・・・・・」
恥ずかしそうに再度ギニヴィアが私の名を呼ぶと、堪らなくなって、その唇に貪りついた。舌を吸って攻めると、ギニヴィアも彼女の滑らかな舌を私のそれに絡めてきた。
ギニヴィアが私を求めているのが分かって、夢中になって口付けを交わし続けた。
・・・・・・駄目だ、耐えなければ。
口付けだけで達してしまっても、情けないだろう。
「やっと・・・お前を自分のものに出来る」
唇を開放して強く抱きしめると、私の腕の中でギニヴィアは又、小さな声で私の名を何度も呼んだ。
あまりの幸福感に、気を失いそうになる。強く目を閉じて意識を集中し、ギニヴィアの頭をそっと撫でて、その美しい黒髪を梳きながら、私は彼女の顔を覗き込んだ。
緊張と期待に胸が高鳴った。
「・・・・・・本当に好きにして良いのか?」
「はい・・・あなたがしたいようになさって。・・・遠慮なさらないで」
その言葉に、欲望が次々と湧き起こる。
ギニヴィアにこうしたい、こうして欲しい、そう色々と妄想しながら長年他の女を抱いて来たのだ。
それが、今、ギニヴィアがその夢を叶えてくれると言っているのだ。
夢の実現に興奮しつつも、頬を染めて潤んだ瞳で私を見上げるギニヴィアの美しい顔を見ると、罪悪感が湧いた。
私が黙ったまま思い悩んでいると、ギニヴィアは私の頬を優しく撫でてくれた。
「エクトル。本当に、宜しいんですのよ。・・・わたくしは、なんでも受け入れますわ」
その言葉と優しい微笑みに、私は勇気を出して、私の頬を撫でる美しいギニヴィアの手を掴んだ。
「・・・・・・では、私のものを・・・・・・触ってくれないか?」
「え・・・?」
首を傾げて私を見上げるギニヴィアを見て、私は緊張しながら、掴んだ彼女の手を、興奮して天を仰いだ私のものに導いた。硬くなった私のものに触れると、ギニヴィアは「あっ」と恥ずかしそうに声を上げた。
「・・・・・・こうやって・・・」
私はギニヴィアの白い手に、自分のものを握らせ、自分の手で上から包んで上下に動かした。ギニヴィアの柔らかく細い指の感覚と、彼女が私のものを触っているという事実に、私は酷く興奮した。
「・・・ああ・・・ギニヴィア・・・・・・」
出会った時からずっと、夢見て来たことだ。
私はギニヴィアの手から自分の手を放して、恥ずかしそうに顔を赤らめて戸惑った顔をするギニヴィアの頬を包んで、口付けた。
「エクトル・・・?」
「・・・そのまま、続けてくれ」
「こう、ですか・・・?」
ぎこちなく、手を動かすギニヴィアに、私のものは快感で脈打ち、限界まで膨張して硬くなった。
「・・・ん・・・ああ・・・・・・」
私は、ギニヴィアの白い肩に顔を埋めて愛撫しながら、快感に酔いしれた。
「・・・あなたの・・・とても、熱いですわ・・・エクトル・・・とても、硬くなりました・・・」
ギニヴィアが、心なしか興奮したような表情で私を見詰める。
「・・・ああ、ギニヴィア・・・・・・うん・・・」
「・・・こうすると、気持ちが宜しいのね・・・?」
恥ずかしそうに嬉しそうに私を見詰めるギニヴィアの顔を見て、私は達しそうになるのを堪えた。
・・・・・・・・・まだ、駄目だ。
ここで達しては勿体無い。
「・・・・・・ああ・・・ギニヴィア・・・もっと、気持ち良く・・・してくれるか・・・?」
「はい。なんなりと仰って」
「・・・・・・これを・・・口で・・・舐めて、咥えて欲しい・・・」
興奮して、私は息が荒くなった。
体中が熱い。
「え? ・・・口で、ですか・・・?」
驚くギニヴィアに、私は焦った。
「・・・その、嫌なら良いのだ。無理やりにさせたくなどないのだから・・・」
「いえ、やってみます。あの、上手く出来るか分かりませんが・・・」
そう言うとギニヴィアは、興奮に濡れる私の先端に口付けた。
私がびくりと体を震わして、熱い視線を向けると、ギニヴィアはそっと舌を出して付け根から先端までを丁寧に舐め上げた。初めてのギニヴィアの舌の感覚に、私は今度こそ本当に達しそうになるのを、必死で堪えた。
「ああっ!! ・・・ギニヴィア・・・くっ・・・・・・」
「ん・・・・・・エクトル、こんな感じで宜しいのですか?」
丁寧に全体を舐めながら、ギニヴィアは私を見上げた。あまりの愛らしさに、私は彼女の頭を両手で撫でながら、息を整えようと深く呼吸をする。
「ああ。・・・手でも口でも・・・したことが無かったのか?」
「・・・わたくし、あなた以外の方と閨を共にした事などありませんもの」
拗ねたような表情でギニヴィアが言った言葉に、私は驚いて彼女の顔を見詰めた。では、恋人とは一度も体の関係を持っていないのか……?
「・・・・・・本当なのか?」
私が問うと、ギニヴィアは私のものを両手で優しく撫でながら頷いた。
「女神に誓って、あなた以外の方の体に触れたことなど、あなた以外の方に触れられたことなど、一度もありません」
「・・・そうか。・・・・・・すまない、ギニヴィア、私は何て愚かな男なのだ・・・」
ずっと、恋人と関係を持っているのだと思い込んでいた。
ギニヴィアは、私しか知らないのだ……。
私しか……。
「・・・もう宜しいですわ。・・・愚かなのはお互い様でしょう?」
そう言うと、ギニヴィアは眉を下げて笑った。
私はそっと彼女の頬を撫でる。
なんて、心が広く、優しく、愛しい女なのだ、お前は。
愚かな私を、受け入れてくれるのか。
「・・・・・・ありがとう・・・ギニヴィア・・・」
ギニヴィアは微笑んで頷くと、再び私のものを舐め始めた。
「うっ・・・ん・・・」
「どのあたりが、気持ちが宜しいのですか?」
優しく全体を舐めるもどかしい愛撫を続けるギニヴィアがそう尋ねると、私は自分のものを両手でもって触って見せた。
「先端と、この辺りが・・・ああ、だが、深く強く吸って何度も出し入れをして貰えると、」
言い切らぬうちに、ギニヴィアは私のものを深く咥えて吸い上げた。
音を立てながら、懸命に私のものを根元から吸い上げるギニヴィアと目が合うと、私はもう堪えられなかった。
「ああ・・・ギニヴィア・・・もう・・・・・・ああっ・・・!!」
口内で放たれた精に、ギニヴィアは驚いてびくりと体を震わせたものの、最後まで吸い上げて飲み干してくれた。
私は潤んでいた自分の目から、耐え切れなくなった涙が零れ落ちたのを感じた。
こんな快感は、今まで味わったことがない。
その上、最後まで飲み干してくれるなど……。
夢に見たよりも、有り得ない夢のようだ。
「まぁ・・・エクトル・・・・・・そんなに、気持ちが宜しかったのですか・・・?」
ギニヴィアは驚いた顔で私を見た後に、そう言って私の濡れた頬を両手で撫でた。
「・・・ああ・・・ギニヴィア・・・最高だった・・・・・・」
私はギニヴィアの豊かな胸に顔を埋めて、柔らかな体を強く抱きしめる。
「・・・可愛い方・・・・・・」
ギニヴィアは、私の頭を愛しむように撫でながら優しく言った。
「・・・こんなに喜んで下さるのなら、もっと以前から、こうして差し上げることが出来れば良かった・・・・・・。わたくしに知識がないばかりに、今まで満足させて差し上げられなくて、申し訳ありませんでした」
そのあまりに愛しい台詞に、私は顔を上げてギニヴィアを見詰めた。
ギニヴィアは、そっと私の頭を撫でながら、私を愛しむように額に口付けた。
「これからは、お好きなだけ、お好きなようにして差し上げますから・・・」
「・・・ギニヴィア・・・!!」
好きなように抱いて良いと言ってくれたのを良い事に、今まで我慢して来た欲望の全てを彼女にぶつけた。 私に攻められて、ギニヴィアは何度も何度も達し、私は何度も何度も、今まで溜めて来た欲望をギニヴィアの中に放った。
「あっ・・・エクトル・・・・・・あっ・・・はぁっ・・・・・・」
「気持ち良いか?」
「・・・そんな事・・・ああっ・・・・・・聞かなくても・・・お解かりでしょう・・・?」
途切れ途切れに言うギニヴィアに、征服欲が満たされる。
「ふっ・・・あっ・・・・・・エクトル・・・あっ・・・ああっ・・・!!」
今までは、声を上げることがあまりなかったギニヴィアだが、今夜は甘い声を上げて熱く私を締め付ける。
「お前がこんなに甘い声で鳴くとは知らなかった。・・・可愛いな、ギニヴィア」
耳元で囁くと、又ギニヴィアの中がきゅっと私を締め付けた。感じているのだ。私に抱かれて、興奮して、達しているのだ。
潤んだ目と朱に染まった体のギニヴィアを抱き抱え、私は自分が下になった。
私の上に馬乗りにさせられ、ギニヴィアは驚き戸惑い、恥ずかしそうに私を見下ろした。ギニヴィアに見下ろされるのは初めての体験で、ぞくぞくと興奮が体を駆け巡った。
ぐっと深く座らせると、私のものが奥まで突き刺さって、ギニヴィアは短く甘い悲鳴を上げた。
「あっ・・・嫌っ・・・こんなっ・・・わたくしっ・・・」
彼女の細い腰を両手で支えて、ギニヴィアの体を動かすと、彼女はどうすれば良いのか悟り、恐る恐る自ら体を動かし始めた。
彼女が動く度に揺れる豊かな胸を両手で可愛がりながら、私は迫り来る快感に再び達しそうになるのを堪える。胸の頂を摘むと、ギニヴィアの体は喜び、自然と益々快感を貪る動きになった。
「もっと、乱れて見せろ。ギニヴィア、お前を全部見せてくれ」
ギニヴィアは快感に溺れた顔で私を見詰め、私の胸に両手を置くと、激しく腰を動かした。もう、耐えられない……。何度も精を放っても、止むことを知らない興奮の波が、再び私を襲った。
「・・・あっ・・・ああっ・・・エクトル・・・エクトル・・・」
「ギニヴィア、もっと私を求めてくれ・・・」
形の良い尻を両手で掴んで、私は絶頂に向けて激しく腰を動かしてギニヴィアを攻めた。
「ああっ!! エクトル!! ・・・あっ・・・ああっ・・・もうっ駄目っ・・・エクトル!!」
切なげに名を呼ばれ、ギニヴィアが達して私を締め付けると同時に、私は堪えていた欲望をギニヴィアの中に放った。
ぐったりとしたギニヴィアの頬を撫で、その頬に、額に、鼻に、瞼に、唇に、優しく口付けを落とす。
あまりの幸福感に、これは夢なのかもしれない、と思った。
夢ならば覚めないで欲しい。
そう思いながら、ギニヴィアを抱き寄せて目を閉じると、私は意識を手放した。
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