赤鷲  (3)

 

 
 
美の都、紅の都、エクリセア。
 ケルトレア王国が建国された約400年前までは、そこはエクリセア王国の首都であり、現在はエクリッセ伯爵領土の主都として栄える都である。
 2600年の歴史を持つその都は、この地方で良く採れる白亜で築き上げられている。ケルトレア王国の主都ケルアや第二の都であるルクサルディアの重厚な石造りの街並みとはまるで違う、曲線の多い優美な白壁の街並みを初めて目にしたキアヌは、暫く言葉も無くその景色に魅入っていた。
 
「・・・紅の都、というのは、お前達の髪の色を指しているのだと思っていた」
 夕焼けを映した白壁の街全体が見事に紅く染まった幻想的な景観に圧倒されながら、キアヌは横に佇むケイリーにぽつりと言った。ケイリーは、嬉しそうにキアヌを見上げて微笑む。
「美の女神ブリューナが、最愛の夫である光の神ルーグの為に造った都なので、光の反射が綺麗に見えるように造られていると云われています。・・・気に入りましたか?」
 
「ああ。・・・美しいな」
「・・・・・・」
 横にいるケイリーが黙って固まった気配がしたので、どうしたのかと思い視線を向けたキアヌは、夕焼けに染まった街の紅とは別の紅に後退さる。
「・・・ハァハァ・・・キアヌ・・・い、今の台詞を・・・も、もう一度言って下さい!」 
「何を言っているのだお前は!? とりあえず、その大量に出ている鼻血を拭け!!」
「ハァハァ・・・美しいキアヌの口から美しいという言葉を聞く、この美しさ!! 皆、聞きましたか!?」
 ケイリーが後ろを振り返って声を掛けたのは、三人の魔術師達。彼らは、瞬時に時空を移動できる「扉」を管理している魔術師達で、二人が街を眺めていた窓はエクリセア城内の扉の魔方陣のある部屋の窓である。
 
 キアヌとケイリーは、王都ケルアからエクリッセ伯爵領土境界沿いの街までは馬で移動し、そこから扉を使ってエクリッセ伯爵領主都エクリセアに移動した。
 首都ケルアを介さずに他領土へ扉を使って移動する事は禁じられているが、各領土内での移動は領主が管理を任されている。エクリッセ伯爵領土内では、事前に申告さえすれば、身分を問わず誰でも扉を利用する事が出来る。
 現在、扉の魔方陣を一から敷ける者は、王家が把握している限りはグレンファー家の当主の息子スタントン・グレンファーのみであり、現在する扉の殆どが昔に作られた物だ。扉の魔方陣を一から敷かない限り、移動する場所は変えられない。よって、扉を管理する魔術師達が変えられるのは移動する人物の名前の部分だけである。扉の魔方陣の入り口と出口の双方に名を刻み、時魔法を使える魔術師が必要なので、多くの土地では領土内の移動に扉はあまり利用されない。というよりも、時魔法を使える魔術師が少ない為に、簡単に利用できないのだ。
 領主の城とケルアにある王城を結ぶ扉は、いつでも繋がっているように管理が義務付けられているので、各領主の城には必ず数名の時魔法を使える魔術師が駐在している。時魔法を使える魔術師を沢山抱える領土は、魔力の強い者が多いエクリッセ伯爵領土以外には、聖騎士爵家の五家の領土である首都ケルアと、ケルトレア王国第二の都市で他国からの玄関である港を持つルクサルド公爵家の領土だけである。
 
「しかと、聞きました! 姫様!! ありがたや、ありがたや〜」
「正に、美の集大成ですね、姫様!」
「まるでルーグ神のようなお美しさですね、流石、姫様の婿殿!」
 魔術師達に手を合わせて祈られ、顔を引き攣らせるキアヌに、ケイリーは頬を染めて鼻を懐布で押さえながらにじり寄る。 
「さぁ、キアヌ!もう一度言って下さい!! 大興奮です!!」 
「待て! 誰が婿に入るなどと言った!!」
 キアヌが魔術師の言葉を否定すると、ケイリーも頷いてにっこりと笑った。
「そうですよ、皆、キアヌは婿ではありませんよ。私が嫁に行くのですから!」
「あな、めでたや!」
「成人の儀と共に祝言ですか、姫様!」
「おめでとうございます、姫様!」
「待て! 嫁に貰うとも言っていないぞ!!」
「キアヌのテレ屋さん!」 
 こんなに美しい街に住んでいる人間が、どうして変態ばかりなのだろうか? 美しい景観の感動が吹き飛んだキアヌは、勝手に盛り上がるケイリーと魔術師達を見て、ガックリと肩を落した。
 
 
「ケイリ〜〜!! 明後日成人の誕生日おめでとう!! 俺の可愛いケイリ〜〜!!」
 そう叫びながら部屋に飛び込んで来た鮮やかな赤毛の男にケイリーが飛びつくと、男はケイリーを抱きかかえて、くるくると回転させた。子供の頃から変わらない兄妹の様子に、キアヌは苦笑した。
「わ〜い、マルス兄様、ちょっと気が早いけれどありがとう〜! でも、私はキアヌのものです。兄様のものではありません」
 ひょいっ、と兄の腕をすり抜けてキアヌの腕につかまったケイリーに、マルスは羨ましそうないじけた顔を作る。
「つれないなぁ〜。くそう! キアヌ、愛されていて羨ましいなぁ! キアヌ、元気だったか〜?」
 キアヌをぎゅ〜っと抱きしめるマルスに、今度はケイリーが羨ましそうな顔をする。
 
「待っていたよ、ケイリー。ああ、今日は一段と可愛いな。キアヌが一緒だからかな?」
 ふふふ、と笑いながら部屋に入ってきたマルスと同じ顔に眼鏡を掛けた双子の片割れに、ケイリーは嬉しそうに抱きついた。
「えへへ。ワッシャー兄様、ありがとう」
「キアヌ。わざわざエクリセアに来てくれて本当にありがとう」
 ワッシャーはにっこりと微笑んで、マルスをキアヌからべりっと引き離すと、キアヌを抱きしめた。
 抵抗してもするだけ無駄な、子供の時から変わらぬ双子の友愛表現に、キアヌは諦めてされるがままになる。親しくない者には、少し触れられるのも嫌なのだが、この双子は全く下心がないことを良く解かっているので嫌な気がしない。恥ずかしくてそんなことは絶対に言えないのだが、彼らが自分を友として好いてくれているのが実のところはとても嬉しい。
「あ〜! もう! 兄様達、さっきからずるいです!! キアヌ〜! 私も抱きしめて下さい〜」
 キアヌに飛び付こうとしたケイリーは、身をかわされてマルスに抱きかかえられる。酷いです、と頬を膨らまして文句を言うケイリーを腕に抱きつつ、マルスは羨ましそうに友人を見た。
「キアヌ! ケイリーに愛されて羨ましいぞ! この、色男!」
「・・・・・・羨ましいのなら、頼むから引き取ってくれ」
「あはは。苦労しているな、キアヌ。久しぶりだな、元気だったか?」
 この状況を心底楽しんでいる様子のワッシャーに、キアヌは溜息を吐きながら答えた。
「ああ、久しぶりだな。相変わらずだな、お前達は」
「いや、お前には負けるよ。相変わらずを極めている!」
「極めている! 極めている!」
 楽しそうに笑う双子に、キアヌは「友人」という言葉の解釈に間違いがあるような気がしてきた。
「・・・相変わらず意味不明だな」
 
 
 
 

 次の日、ケイリーは成人の儀の準備があるから忙しいということで、双子達がキアヌにエクリセアを案内した。
 顔が知られている双子達と、民の信仰するルーグ神を髣髴させるキアヌは大変目立ち、行く先々で沢山の人々に声を掛けられた。常日頃から人々の注目を浴びていて、それが嫌で仕方がないキアヌが、不思議と嫌な気分にならなかった。
 エクリセアの民は自分に卑猥な視線を向けないのだということに気が付き、驚いた。信仰する神に似ているからだとしても、とても嬉しい。
 領主の息子である双子をとても慕っている様子の民に、次期領主の顔を見せる二人を見て、キアヌは驚きつつも誇らしく思えた。昨日は、エクリセアの城に移動する為の扉を使った国境沿いの街やエクリセア城内での人々のケイリーの扱いにも、キアヌは驚いた。幼い頃からいつも一緒にいて、剣を握り汗と埃にまみれているケイリーが、「姫」と呼ばれ、その呼び名どおりに、いや、それ以上に王女の様に扱われていることが酷く衝撃的だった。
 400年以上も昔に統合されたといっても、今でも一つの独立国家のようであるエクリッセ伯爵領土では、文化も異なる中央政権のケルトレア王家よりも、元エクリセア王家であるエクリッセ伯爵家に民は心を寄せているのだ。
 王家のお膝元である首都ケルアで育ったキアヌには、それは非常に違和感のあることであり、疎外感を感じた。
(それに、あの城は……)
 随分と城から離れた所から見上げているのに、未だにその存在を知らしめる巨大で優美な城を眺めて、キアヌの胸は何故か騒めいた。
(まるで、王城……。ケイリーはあの城の姫なのか……。マルスとワッシャーはあの城の城主になるのか……) 
  
 ケルトレア王国の地図を頭に思い描く。
 エクリッセ伯爵家は三番目に広い領土を持つ。一番広いのは、ケルトレア王国で首都ケルアを中心とした地域で、聖騎士爵家の五家の共同領地。二番目に広いのがルクサルド公爵領土。他の貴族の不満を抑え、領地を分けずにエクリセア王国そのままに残す為に、三番目に広い領土を持ちながらもエクリッセ家は侯爵ではなく一つ下の伯爵の爵位を与えられた。
 ケルトレア王国における貴族の爵位は、王族に続くのは現在ルクサルド公爵家のみの公爵、第二位に聖騎士爵、それに続くのが、侯爵、伯爵、子爵、男爵である。
 しかし、エクリッセ伯爵家の爵位は公式な場での扱いのみにとどまり、実際のところは、聖騎士爵家と同様と言って良い程の力を持つ。現王の様にエクリセアがケルトレアに完全に同化していない事を危険視する王は歴史上に何人も存在し、その御世においては冷遇されるエクリッセ伯爵家であったが、強力な魔力と高い頭脳と高性能な魔具の技術を持つエクリッセ家は、400年のケルトレアの歴史において、幾度となくケルトレア王国を支えてその名を残している。 
 
  キアヌは常にケルトレア王国の歴史の中心にいる聖騎士爵家の跡継ぎであるが、頂点に立つ感覚は分からない。ケルアが聖騎士爵家の領土であるといっても、5家が協力して治めている領土であり、結局のところ、頂に掲げるのは国王だ。常に誰かに仕えている感覚しかないキアヌにとって、元々一つの王国であった広大な土地を治めることは、全く想像のつかないことであった。 
  2600年もの歴史のある巨城が、双子達とケイリーを、キアヌから遠い存在のように思わせた。置いてきぼりにされたような寂しさと孤独が胸に広がって、悲しかった。 
   
   
    
  エクリセア観光を終えて夕食を済ませると、キアヌの部屋に双子が酒を持ってやって来た。 
  長椅子に腰掛けながら、二人は自分達とキアヌに酒を注いで、ほうっと溜息を吐いた。  
「・・・明日でケイリーも17歳かぁ」
「大きくなったな。 あんなに小さかったケイリーが・・・!」
「うんうん。相変わらず可愛い!! 世界一可愛い!!」 
  何故、わざわざ私の部屋でこの会話をしているのだ? と兄馬鹿二人を眺めながら溜息を吐くキアヌをよそに、二人はケイリー話に花を咲かせる。
「ああ、でも大人になって、立派になったよな」
「うんうん、胸も尻もな!!」
「・・・立派になったよな」 
「おい! 兄妹でそんなことを言うな!」 
  キアヌが眉を寄せて二人を見ると、彼らは顔を見合わせてからにやりと笑った。
「事実じゃないか〜」
「さあ、キアヌ。 美味しく頂いちゃってくれ!」 
「一気にな!」 
「・・・は?」    
  思いもよらなかった台詞の理解ができずに、キアヌが双子の顔を交互に見ると、二人はガシッとキアヌの肩を抱いた。
「他の男では嫌だけれど、キアヌなら俺達は大満足だ! 大歓迎だ!」
「ケイリーはお前が大好きだからな」
「さぁ、遠慮せずに、ケイリーを抱いてやってくれ」
「・・・な、何を言うのだ、お前達は!」 
  カッと血が上って、キアヌは二人を押しのけて立ち上がった。  
  
  顔を赤くして怒った顔のキアヌを、ワッシャーが見上げながら言った。
「・・・なぁ、キアヌ、もしかして、本当にケイリーは嫌なのか?」
「そんなわけないだろう! 世界一可愛いケイリーを嫌なわけないよな?」 
  マルスが立ち上がって懇願するようにキアヌの手を握ると、ワッシャーがマルスの手を引き離した。
「キアヌ、どうなんだ? ケイリーはお前一筋で生きて来たけれど、お前が他の女が良いと言うのならば、仕方がないと思う」
「ワッシャー! 何を言うんだ!! ケイリーが可哀想じゃないか!!」
「マルス、お前は少し黙ってろ。・・・どうなんだ? 他に好きな女がいるのか?」 
  真剣な顔のワッシャーに、キアヌは長椅子に座り直して、小さく言った。
「・・・好きな女などいない」
「良かったなぁ! ケイリー!! キアヌはお前のものだぞ!!」
「・・・マルス」 
  両手を挙げたマルスをワッシャーが睨んだ。
「・・・ごめん、つい」
「キアヌはケイリーを女として見ることができないのか? 魅力的ではないのか?」 
  ワッシャーが静かに言ってキアヌの顔を覗き込むと、キアヌは眉を寄せて考えながら口を開いた。
「・・・ケイリーは、お前達と同じでふざけた性格だが、頭の回転は速いし、乗馬の腕も剣の腕も素晴らしい。良い騎士になるだろう」
「いや、俺達が聞いてんのは、女としてどう思うかって事だよ」 
  マルスが苦笑して言うと、ワッシャーも頷いて尋ねた。
「可愛いと思うか?」
「・・・そうだな」  
  
  可愛い、確かにそう思う。 
  初めて会ったその時に、そう思った。 
  その気持ちは今も変わっていない。 
  可愛い。 
  馬鹿な奴だと思うが、そこが可愛いのだと思う。 
  いつも冷たくしているが、それでもめげずに自分に付きまとうケイリーの存在を当然のように思っている。そこにいるのが当然で、自分に微笑みかけてくれるのが当然の存在。 
  初めて会った時から、何一つ変わっていない。  
  変わるべきなのに、変われないのだ。 
  
「そうか」
「じゃあ、いいや」 
  静かに笑って酒を飲む双子に、キアヌは、はっとして顔を上げた。
  軽蔑されるかもしれないと思うと、怖かったのだ。 
  マルスとワッシャーは、大切な存在だったから、嫌われたくなかったのだ。 
  だけど、今言わなければ、彼らを裏切る事になると思った。
「・・・私は・・・・・・性欲が無いのだ」 
  キアヌは声を振り絞ると、二人の反応を見る恐ろしさに俯いた。 
 
  
「知ってるよ。それはどうでも良いんだよ」 
「そーそー、別に問題じゃないだろ、そんなこと」  
  明るく笑う双子の声に、キアヌは拍子抜けして顔を上げた。 
「・・・・・・何故知っている?」
「ストリップバーに無理やり連れて行ったじゃ〜ん」 
  そう言えばそんなこともあったな、と思い出しつつ、キアヌは首を傾げた。
「・・・それくらいで分かるものなのか?」
「キアヌはまるで興味を示さなかったからな」 
 うんうん、と頷く二人にキアヌは眉を寄せる。 
「性欲が無いことが問題ない筈がないだろう!」   
 怒った風に言うキアヌに、双子は顔を見合わせた後、マルスが首を傾げて言った。  
「娼館はまだ行ったことないだろ?」
「性欲が無いのだからあたりまえだろうが」 
  顔を赤らめて怒った顔で言うキアヌに、マルスがにやりと笑った。
「じゃあ、今度行こうぜ! ケルアにある国内最高の娼館に皆で行こうぜ! へっへっへ」
「職人芸で人生観が変わるかもしれないな?」 
  ふふふ、と楽しそうに笑うワッシャーに、キアヌが言い難そうに小さく言った。  
「・・・それでも性欲が無かったらどうするのだ?」
「それはそれで良いのではないか?別に今まで不便は無かったんだろう?」
「・・・無かったが」 
  眉を寄せながらキアヌが言うと、マルスがぱしぱしとキアヌの背中を叩いた。
「ケイリーはさ、キアヌと一緒にいられるだけで幸せなんだよ」
「まぁ、抱いてくれるに越したことはないが、抱けなくともケイリーはキアヌと一緒にいるだけで幸せだからな」
「・・・お前達、おかしいぞ?」
「今に始まったことじゃなだろう?」 
  ふふふ、と笑うワッシャーにマルスも笑顔で頷いて言う。
「俺達的には、お前が好色家でケイリー以外の女を抱きまくっているよりもずっといいよ」
「ケイリーが泣かないのが一番」 
「そうだ、そうだ!」 
  
「・・・私が気持ち悪くないのか?」 
  キアヌが驚いて目を瞬かせて二人を見ると、二人も驚いた顔で目を瞬かせた。
「ええ?! 何でだよ?」
「性欲が無いからか?」
「・・・人間としておかしいだろう? まるで化け物の様に噂されているぞ」 
  キアヌが耳にした自分の影口を思い出しながら言うと、双子の顔が急に曇った。
「なんだと! 誰がキアヌを化け物呼ばわりするんだよ!? 俺達が闇に葬ってやるぜ! な、ワッシャー?」
「ああ。社会的にじわじわとな。くくくく」
「・・・・・・いや、別に良い。お前達は、私が考え付かないような本当に恐ろしいことをしそうだからな・・・」
「許せねーよ! あれだろ、自分がぶっさいくだからキアヌのかっこよさに嫉妬してんだろ。きっと脳みそも魚くらいしかねーぜ」
「キアヌはいらぬ嫉妬を受けやすいからな。そんなゴミ共の言葉など、気にすることはないさ」
「だな! でも、ムカついたらいつでも言えよ? 愚痴を聞くだけでもいーし、キアヌが直接手を下せない社会のゴミ共は俺達が処分してやるぞ」 
「ああ。燃えカスが残らない程にな」  
  恐ろしい事を楽しげに言う二人を見て、キアヌはふっと笑みをこぼした。
「・・・ありがとう」 
  
「「・・・・・・ええ!?」」 
  驚きの声を上げる双子に、キアヌが少し頬を染めてムッとする横で、双子は手を取り合った。
「・・・聞いたか、ワッシャー!? キアヌが俺達に『ありがとう』と言ったぞ!」
「超レア。プレミア。私はこの瞬間を永遠に忘れないよ。生きていて良かった」
「俺も! 俺も!!」  
「キアヌに乾杯! 寧ろ完敗?」 
「完敗! 完敗! 俺達完敗! 寧ろ、俺達に乾杯!」   
  喜んでグラスを合わせて酒を一気飲みする二人に、キアヌがいつもの冷たい視線を浴びせる。
「・・・お前達兄弟は本当に頭がおかしいな。頭が良過ぎてイカレているのか?」
「キアヌに褒められたぞ、マルス!」
「褒められた! 褒められた!」 
  はしゃぐ酔っ払いの双子に、キアヌは溜息を吐いた。 
  
「・・・褒めてないぞ?」

 

 

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