美少年より田舎暮らし! (2)

 


「これって一体、どういうことなの!?」
 
 
 豪華絢爛で盛大な結婚式が終わり、大聖堂から程近いオルデス聖騎士爵家の豪邸に移動しての披露宴も、夜になってやっと一段落した。
 ニールの横で国中の要人に挨拶をして回って、心身ともにボロボロのローレリアは、やっと一息ついたところで、兄達と姉を沢山ある控え室の一つに連れて行き、詰め寄った。
 
「・・・は? 何を言っているんだ?」
 葡萄酒を片手に機嫌の良さそうな、ローレリアの長兄のランディスが首を傾げた。青と緑の色違いのタレ目に、こげ茶色の髪で、ローレリアと良く似ている。
「だから! 何で私がニールと結婚してるの!?」
 自分の言葉に情けなくなりながら、ローレリアは眉を寄せた。
「・・・ローリィ、お前、飲み過ぎだろう?」
 よしよし、と頭を撫でる次兄レミュエルの手をローレリアは振り払って首を振る。第三子でローレリアに一番年が近い次兄の青と緑の色違いの目は切れ長で、髪の色も明るい茶色なので、こちらはあまりローレリアと似ていない。
 
「酔っ払ってなんかいないってば!! 寧ろ、酔っ払いたいわよ!!」
「意味が解からん」
「幸せ過ぎて、混乱しているんじゃないの?」
 目を瞬かせながら、姉のリネットが言うと、ローレリアは地団太を踏んだ。
「違うーーー!!」
 次兄レミュエルと同じ切れ長の目に明るい茶色の髪の姉のリネットは、すらりと背も高くローレリアよりも美人顔で、ローレリアはこのことを多少気にしている。次兄と姉が母親似で、長兄とローレリアは父親似なのだ。
 ローレリアの母はルジェ子爵領土よりも、もっとずっと開けた土地の出身で、「都会風の別嬪さん」というのが、領民による領主夫人の評価だ。
 
 きーーーーーっ!!! と、何やら奇声を上げながら、ローレリアは壁を殴っている。
 今日一日、溜まりに溜まったものが爆発したらしい。
 本当は綺麗に花の飾られた机を片っ端からひっくり返したいのだが、一脚で牛一頭の値段だと思うと、怖くて手が出せない。
 
「意味が解からないっていうか訳が解からないのはこっちよ!! 私、ペルノ伯爵家のアベル様と結婚するはずだったでしょ!?」
「はぁ?」
「何を言っているのだ、お前は?」
「冗談でしょ、ローリィ?」
 気の抜けた声で言う兄弟達に、ローレリアは憤慨する。
「何を言っているのだ、冗談でしょって、それはこっちの台詞よ!! アベル様と結婚するつもりだったのに、目の前にいるのがニールってどういうことなの!?」
 
 ローレリアの言葉に、三人は顔を見合わせ、暫し沈黙した後、長兄ランディスが口を開いた。
「・・・お前、本当にペルノ伯爵家の跡取りと結婚すると思い込んでいたのか?」
 疑わしそうに長兄が言うと、ローレリアは三人の顔を見渡した。
「思い込むって・・・だって、そうだったでしょ!? 皆して、私を騙したの!?」 
「・・・・・・いや、3ヶ月も前から、お前はニール君と結婚する予定だったぞ? 準備に明け暮れていたじゃないか」
 ローレリアの真剣な様子を見て、ランディスは心配そうな顔で言う。
 首都ケルアのルジェ家の屋敷にローレリアと一緒に住んでいて、ローレリア同様、魔術師隊に勤めているレミュエルは、訝しげに妹を見た。
「3ヶ月間騙されていたとでも言うのか? ケルアじゃ、お前とニール君の結婚の話題で大いに盛り上がっていたのだから、ありえないだろう。お前も魔術師隊で城務めしていたのだから、どう考えても不可能だ」
「そうよ。騙すも何も、自分で言っていたじゃないの。それにしても素晴らしい結婚式だったわねぇ! ローリィ、王女様みたいだったわよ〜! なんか挙動不審だったけど、あれだけの面々に囲まれちゃ、脚も震えるわよね。緊張して、記憶も多少飛んじゃったのかもね?」
 リネットは、そう明るく笑って言って、肩を竦めた。
 
 
「・・・・・・どういうこと? 3ヶ月前にアベル様と婚約したんじゃないの、私?」
 兄達と姉の反応に、ローレリアは不安に泣きそうになる。
 ルジェ家の兄弟は皆「女神の気まぐれ」だという結束もあり、とても仲が良く、彼らが自分をからかって困らせているわけではないことは、ローレリアは良く解かっていた。
 では、一体、どうして、当事者の自分だけが記憶違いをしているのだろうか?
 訳が解からずに、頭が真っ白になって、ローレリアは床を眺めた。
 敷き詰められた絨毯が、無駄に高価だ。
 
「・・・・・・お前の主張をまとめると、アベル殿と婚約して結婚するつもりで、式に出たら相手はニール君だったと気が付いたということか?」
 長兄が困った顔で問うと、ローレリアは顔を上げて叫んだ。
「そうなの!! 式の最中で気が付いたんだけど、あんな凄い面子の前で、『あなたと結婚するつもりはなかった』なんて言えるわけないでしょ!?」
「「「・・・・・・」」」
 確かに、それは不可能だろう。
 あの面々を前に、そんな事を言ったらどうなるかなど、恐ろしくて想像もしたくない。
 広い控え室にはルジェ四兄弟以外には誰もいないので、沈黙が横たわる。
 
 
 
 ぽんっ。
 暫くして、三人は仲良く同時にローレリアの肩を叩いた。
 
「お前の言っていることは解せないが、領土の為にも、ニール君と仲良くな」
「玉の輿、おめでとう」
「女の幸せは、愛されてこそ、よ」
 
 にっこりと笑う兄達と姉に、ローレリアは再び「きーーーーっ!!!」と、奇声を上げた。
「人事だと思って〜〜! それでも血を分けた兄弟なのっ!?」
 涙目で訴える妹に、三人は肩を竦める。
 
「なんだか良く解からないが、ぼーっとしていたお前が悪い。いいか、人間、隙を見せたら付け入られるものなんだ! 父上を見ろよ。付け入られまくりだろ?」
 と、神妙な顔で長兄。
「それとこれは関係ないと思うが、まぁ、長いものには巻かれろ」
 と、冷めた顔で次兄。
「相手がニール君なんだから良いじゃないの。文句を言ったらケルトレア中の乙女に八つ裂きにされるわよ」
 と、片目を瞑って姉。
「そんな、酷い〜〜!! 妹を売るのねっ!!!!」
 
 非難する妹に、三人は又肩を竦める。どうやら、これは、彼らの癖らしい。
「何をどうしろというんだ。相手は聖騎士爵家だぞ?」
「何もどうにもならない。うちとじゃ天と地程差があるからな」
「良いじゃないの、ニール君! まぁ、ぼ〜っとした子だけど・・・でも、ほら、とっても美少年だし! それに、あんなに可愛い顔でも、やっぱり騎士なら良い体なんでしょ? 羨ましいわぁ!」
 最後の姉の台詞はどうでも良いとして、兄達の言い分は尤もである。
 自分の置かれた立場を再確認して、ローレリアは項垂れた。
 
 暗い表情のローレリアの顔を覗き込んで、リネットが励ますように微笑む。
「うちの旦那のディサローノ伯爵領土で沢山取れる紫マキマキでオルデス家の紫色に染めたラゴルジェ織の、物凄い高価な紫の服を着られて良いじゃないの! ・・・・・・って言うかね、あんな高価な物に喜んでお金を払うのはオルデス家くらいなんだから。うちの領土の為にも上手くやってよね?」
 励ましだったはずが、最後の方は、大変政略的だ。
 ラゴルジェという羊に似た動物の毛織物は、ルジェ子爵領の唯一の特産品である。着ている事を忘れるほどに軽いのにとても温かいラゴルジェ織は、大変人気があるのだが生産量が少なくとても高価なので、王族や高位貴族の注文から優先的に取って行く事になる。勿論、オルデス聖騎士爵家からの注文もある。
 オルデス家の色である紫色に染める染料は、いくつかある紫の染料の中でも一番高価な「紫マキマキ」という貝から取れる染料を指定されていて、その生産地が、ローレリアの姉リネットの嫁ぎ先ディサローノ伯爵領なのだ。
 
 むっとしてローレリアが顔を上げると、次期ルジェ子爵領主のランディスも政治家の顔をする。
「それを言うなら、俺の可愛い嫁さんのお袋さん、シャルトリューズ侯爵家出身だ」
「シャルトリューズ侯爵家・・・?」
「ヴァンス・シャルトリューズ外交長官は、ニール君の麗しの姉君ナタリー殿の夫君だろう?」
「・・・え、何、その繋がり・・・・・・」
 初めて耳にした事に、ローレリアは眉を寄せた。
  
「ちなみに、俺が逆玉を狙って縁談話を進めている相手の母君は、オルデス家の分家出身だから」
 レミュエルまでもが、にっこりと笑ってそう言うと、ローレリアは驚いて次兄の顔を見た。
「は!? っていうか、え!? レミュエル兄さん、逆玉って何よ!?」
「だって、お前がケルアに残って城務めをするならば、俺はケルアにいる必要がないだろう? 俺は、娘しかいない伯爵家の姫と結婚して爵位を継ぐ予定」
「な、な、何それ!? 裏切り者〜〜!!」
 
 ケルトレア王国には女性に爵位を継ぐ権利がないので、男児がいない場合、女児の婿が爵位を継ぐ事になるのだ。その場合、自分と血が少しも繋がっていない婿に爵位を譲るのが嫌だからと、分家から婿を取る者が多いのだが、魔力も強く頭が良く冷静なレミュエルには、爵位をちらつかせた縁談がいくつも来ていたのだ。
 爵位を持つ領主は、子供を一人首都に置いて城仕えをさせなければいけない決まりがあるので、辞退していたのだが、ローレリアがケルアに残るのならば、レミュエルはケルアにいる必要がなくなる。
 
「何を言うんだ? 当然の選択じゃないか。この姫が又、可愛い子でな。『女神の気まぐれ』様々だな」
 にやり、と笑うレミュエルを、ローレリアは呆然と見た。
「うちの領土とも良い貿易が出来そうな領土だしな」
「うちともなのよね」
 ランディスもリネットも知っていたらしい。
 又、自分だけ記憶が抜けているのだろうか?
 もう、何もかも嫌になって来た。何もかも、オルデス家が……。
 
 
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! おかしくない? 他にも山ほど貴族の家があるのに、全員がオルデス家と何らかの繋がりを持っている相手って、どう考えても変でしょ!?」
 興奮がちに言うローレリアに、三人は当然という顔で頷いた。
「偶然じゃないだろうな」
「ありえないわね」
「どう見てもな」
 その反応に、ローレリアは目を瞬かせる。
「え、何でそんなに冷静なの!? だって、これって・・・・・・ええっ!? ニールが裏で手を回したって事!? ・・・そんな、信じられない!! 私達、皆、ニールに騙されて、仕組まれた事に嵌ったの!? ニールが全部裏工作したの!?」
 叫ぶローレリアに、三人は顔を見合わせる。
 
「屋根に登ろうとして天窓に挟まって、身動き取れなくなっていたニール君が?」
「底無し沼の底を調べようとして溺れたニール君が?」
「ラゴルジェの背に跨って、『騎士達が馬ではなく羊に乗っていたら、敵も戦意喪失して良いかもしれないですね!』とか真顔で言って、振り落とされて、そのまま坂をゴロゴロ転がり落ちて行ったニール君が?」
 確かに、そんなこともあったわね、とローレリアは懐かしく思う。もこもこの羊に似たラゴルジェに跨ったニールはとても可愛かった。
 
「トマト畑で、『これは新種の林檎ですか?』と首を傾げたニール君が?」
「川で魚を釣って、魚に足が無い事に驚いていたニール君が?」
「ロロ鳥の丸焼きを目の前にして失神したニール君が?」
 仕方ないじゃないか。首都ケルアの聖騎士爵家に生まれ育った箱入り御曹司のニールにとっては、食べ物というのは、凄腕の料理人によって調理されてお皿の上で芸術的な形を成している物なのだから。と、心の中で無意識にニールを庇うローレリア。
 
「毎年夏祭りでは、大声で物凄く音痴な恋の歌を歌うのが領民に大好評なニール君が?」
「田舎の子供達に『ニール様は喋らなければ王子様みたいですね』とか無礼な事を言われて、『そんなに褒めないでください。えへへ』と喜ぶニール君が?」
「『馬鹿は風邪引かないを検証します!』と言って、雪の中薄着で剣の素振りを延々としていたニール君が?」
「その後、結局風邪を引いて寝込んで、ローリィの手からじゃなきゃ何も食べないと駄々こねて二日間絶食して、屋敷にオルデス家から迎えが来て、大慌てで見舞いに行ったら、高熱を出しているのに『あーん、って言って食べさせてくださいね』とか物凄く嬉しそうに言っていたニール君が?」
 この辺は、庇うに庇えない。ただの阿呆な気がする。
 
 幼少の頃からのニールの行動の数々を口にする兄弟に、ローレリアは顔を引き攣らせる。
 ニールは首都ケルアのルジェ家の屋敷にも入り浸っていたし、学校が夏休みになってローレリアが実家に帰ると、毎年欠かさずニールもルジェ子爵領に遊びに来ていたので、ローレリアの兄達も姉も、ニールの事は良く知っている。
 物凄く世間知らずの箱入りのお坊ちゃんで、どうしょもなく世話が焼けて、ネジが一本抜けている。剣の腕は良いし、お勉強は出来るし、顔はとっても良いのに、残念ね
、というのがニールの周囲の人間達からの評価だ。
 オルデス家ではこの事が大変問題になっていて、ニールの姉が男だったら良かったのに、と皆思っているらしい。結婚したニールの姉が男児を産んだら、そちらにオルデス家を継がせた方が良いのでは、という意見も分家から出ているそうだが、直系の息子を無視してそうするのは世間体も悪いから、とニールは跡継ぎのままである。
 
  
 
「・・・まぁ、あのニールがそんな手回しを出来るわけないか・・・・・・。じゃあ、裏工作はニールじゃなくて、ニールのご両親ってことよね・・・?」
「だろうね」
「まさか、あの『麗しの紫の騎士乙女』が裏工作をするとも思えないしねぇ」
 黒髪に青い目のニールの姉ナタリーは、当代一の美姫とも謳われる大変見目美しい姫である。
 騎士としての腕前も素晴らしい上に、淑女の見本と言えるような清楚可憐な性格で、これ以上求めるものは誰も何も思いつかない、という程の完璧な女性だ。
 彼女が外交長官ヴァンス・シャルトリューズと結婚した時は、騎士隊の男達があまりに意気消沈して、一週間程使い物にならなかったという噂だ。
 ヴァンス長官も大変女性に人気があったので、その一週間は、城内は喪に服したような暗い雰囲気だったらしい。
 
「ぼんやりニール君と清楚可憐なナタリー殿は、オルデスらしくないけれど、ご両親は見るからに狸だからな」
「お義父様とお義母様と仲良くな、ローリィ」
「頑張ってね、ローリィ!」
 兄達と姉の言葉に、ローレリアは青ざめる。
「ううううう。無理・・・絶対無理・・・・・・。私なんかが将来の聖騎士爵夫人になるとか、ありえないし!」
 オルデス聖騎士爵と夫人は、ニールの所為で昔から知っているが、身分が違い過ぎるので馴染めない。せめて、ニールの様におおらかで話しやすい雰囲気だったら良かったのだが、彼らはその身分相応に大変気位の高い性格と雰囲気を持っている。オルデス家と言えば、建国以前は騎士家ではなく宰相を数多く出していた生粋の政治家の名門で、策略に長けている事が有名なのだから、ニールが「オルデスらしくない」とよく言われているのは当然だ。
 勿論、義理の親子になった以上はニールの両親とも完璧な姉とも仲良くやっていきたいが、どう考えても、上手く行きそうにない。胃が痛くなってきた。
 
「ローリィは俺達の中で一番魔力も強くて、ニール君の子供も産めるだけの魔力があるのだから大丈夫だろう?」
「国に貢献出来るわね、ローリィ!」
「こうやって裏工作して手を回してまで跡継ぎの嫁にしたという事は、それだけお前を買っているって事じゃないか」
「うう・・・人事だと思って・・・・・・。大体、ニールのご両親が手を回したかどうか分からないし・・・」
 ローレリアは暗い顔で眉を寄せる。
「じゃあ、偶然だと言うのか?」
「・・・それは、流石にないと思う・・・・・・」
 どう考えても、出来過ぎている。
 眉間に皺を寄せるローレリアの頬を、リネットがぷにっと引っ張った。 
 
 
「もう、良いじゃないの、ローリィ! グダグダ考えたって何も変わらないんだから。あなたは今日からオルデス家に入って、ニール君の奥さんなのよ。これは何をどうしたって変わらない事実でしょ。楽しくやれば良いじゃないの! 折角の凄いドレスと上手な化粧が台無しよ! ほうら、可愛いローリィ、笑って、笑って! 幸い夫はあんなに美少年なんだから!」
 笑って言う姉に、つられてローレリアも少し笑う。
「もう、姉さんはそればっかり! あれでしょ、ニールが美少年じゃなかったら、全然反応違うんでしょ」
「そんなの当たり前じゃないの」
 何を今更、という顔をするリネットに、他三名は肩を竦めた。
「ここまで開き直っていると、清々しいな」
「姉さんは、夫君も男前だしね」
「夫は顔で選びましたから!」
 胸を張る姉にローレリアは溜息を吐いた。
 確かに義兄は男前だ。顔も整っているのだが、海の男らしく豪快な男っぷりもカッコイイ。
「これから先、何十年と毎日顔を合わせる相手なのよ? 男前の方が良いに決まっているじゃない!」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・」
「大体、ローリィは、若いのに枯れ過ぎ!」
「か、枯れ過ぎって・・・」
 堅実とか誠実とか他に言い方があるだろう。
 ムッとして姉を見ると、チッチッチッと人差し指を横に振る。
 
「普通、乙女だったら、『あ〜ん、あの方素敵!』『あちらの方も男前!』っていうのが一番盛り上がる話題でしょ? ローリィは乙女の風上にもおけないわね! それでも乙女なの!?」
「どう見ても処女だろ。ニール君以外、男っ気全然ないし!」
「ローリィが経験済みだったら、全国の成人女性は全員経験済みだね!」
「・・・結婚するまで乙女なのは誇らしい事の筈なのに、何、この貶された感」
 意味不明な言いがかりを付けるリネットと、腹を抱えて笑うランディスとレミュエルに、ローレリアは付いていけない。
「ほんと、ローリィって男に興味ないものね。キーファー様に憧れていて騎士カードこっそり持っているムッツリスケベなのは知っているけど」
「な、何で知ってるのよ!」
 元騎士長の姿絵カードは、こっそり机の中に仕舞ってあるのに! 頬を染めてローレリアは慌てる。
 
 
「へぇ、そうなんですか? ・・・キーファー様のどの辺が好きなんですか、ローレリアさん?」
「キーファー様は全てが素敵・・・・・・って、うわぁ!! ニール!? いつから聞いていたのよ!!」
 いつの間にか背後にいたニールに驚いたローレリアは、体を仰け反らせ、机にぶつかりそうになったところをニールに支えられ、そのまま抱き寄せられた。
 ニヤニヤ笑いながら楽しそうにその様子を見ている兄達と姉に、ローレリアは頬をカッと染める。
 
「そういえば、先程キーファー様にご挨拶した時に、頬を染めて目を潤ましていましたよね? ・・・不倫は駄目ですよ、ローレリアさん! ローレリアさんは僕の奥さんなんですからね? さぁ、もう、二人っきりになりましょう!! では、お義姉様もお義兄様達も今日はありがとうございました。ごきげんよう!」 
 満面の笑顔のニールに、ローレリアの兄弟達はにっこりと笑顔を返した。
「はい、ごきげんよう、ニール君」
「妹を宜しくお願いします、ニール君」
「優しくしてあげてね、ニール君」
 
 嬉しそうなニールに、俗に言うところの「お姫様だっこ」で抱き抱えられて、無理矢理に連れ攫われながら、ローレリアは叫んだ。
 
 
「裏切り者〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

 

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