千夜一夜<後編>

 


 私の部下である女騎士のケイリー・エクリッセが、フェリシテと親友だったことから、私とフェリシテの密会はエリクッセ伯爵領の屋敷で行われた。

 ケイリーの双子の兄達は、私の又従兄弟で親友の騎士キアヌ・ブラヴォドと親友だったので、私の頼みを快く受け入れてくれた。

 奇才揃いで有名なエクリッセ家出身の双子達は、その名に恥じぬ食わせ者ではあったが、キアヌの影響もあって、私に多大なる好意と敬意を持ってくれていたので、彼らの屋敷はとても居心地が良かった。

  

 ケイリーもお祖父様の選んだ私の花嫁候補だったが、私は彼女がキアヌを幼い頃から一心に愛している事を知っているので除外した。それなのに私がエクリッセ伯爵領土に通っている事を、お祖父様はどこからか耳に入れて、エクリッセ家をフェリシテと会う為に使っている事を知られてしまった。
 本来ならば、私が一人の名家出身の女に執着する事を一番に喜ぶはずのお祖父様は、フェリシテが病弱で子を産むことが出来ないと知って激怒した。
 女など子をつくる為の道具だと思っていた私が、お祖父様のフェリシテを侮辱する言葉に憤慨し、子を生せないことで彼女の存在さえも否定されることが許せなかった。

  

  


 エクリッセ家の庭は美しく、フェリシテと木陰で寄り添っていると、時を忘れた。
 永遠に、こうしていたいと思った。
 その為には、私は覚悟を決めなければならなかった。 
 後悔をしない決断をする覚悟を。



「フェリシテ」
 私は意を決して、フェリシテを真っ直ぐに見つめた。
「ライオネルさま、どういたしましたの?怖いお顔をなさっていますわ。怖いお顔も素敵ですけれど、笑顔の方が素敵ですわ」
 フェリシテはそう言って、私の頬を両手で包んで首をかしげた。
 私はそっと彼女の両手を取ると、指先に口付けて深呼吸をした。
 真剣な顔の私に、フェリシテも真面目な顔をして私を見つめ返した。

  

「フェリシテ・バーディネー。私、ライオネル・ネグリタは、貴女ただ一人を愛していること、これからも貴女ただ一人を愛することを、我等の女神ダヌダクアの御名の下に誓う」

  

 私の結婚の誓いの言葉に、フェリシテは目を見開いて息を呑んだ。
 何も言えずにいる彼女を見つめながら、私は生きた心地がせず、自分の心臓の音がただ大きく鳴り響き、私を責めているように思えた。
 ほんの一瞬だったのか、何時間もたったのか分からなかった。
 フェリシテは、その小さく可憐な震える唇をそっと開いた。

  

「ライオネル・ネグリタ。わたくし、フェリシテ・バーディネーは、貴方ただ一人を愛していること、これからも貴方ただ一人を愛することを、我等の女神ダヌダクアの御名の下に誓います」


 喜びに、胸が痛いほど締め付けられた。
 その濡れた唇に口付けると、全身の血液の流れを感じるかのように体中が熱くなった。
 私は堪らなくなり、フェリシテの小さな体を強く抱きしめた。
「あなたを抱けなくても良い。ただ側にいたい。ただこうやって抱きしめているだけで、こんなにも私は幸せだ。死ぬまでこうしていたい。私と結婚して欲しい」
「・・・はい、ライオネルさま。わたくしも一生あなたの側にいたいですわ。胸が痛いほどに幸せですの」
「フェリシテ・・・」
 私は、あまりの幸福に胸が詰まって、ただフェリシテを抱きしめ続けた。

  
  

「・・・ライオネルさま・・・・・・わたくしを抱いて、本当にあなたの妻にしてくださいませ」
 フェリシテが私の顔を見上げて、恥ずかしそうに言った言葉に、私は目を見開いた。
「・・・あなたの体は・・・男を受け入れることが出来るのか?」
 愛する女を抱きたくない男などいないだろう。まして、こんなに可愛らしく頬を染めて抱いて欲しいと言われて断るなど、男ではない。しかし、抱きしめただけで折れそうな程に華奢な体を抱いたら、壊してしまうのではないかと、私は躊躇する。フェリシテは私の葛藤を見て取ってか、にっこりと笑って私の頬を両手で包むと、小さな唇を優しく私のそれに重ねた。
 その柔らかで甘い感覚に、私の身も心も、もっと彼女を欲しいと叫んでいる。

  
「大丈夫ですわ。・・・ライオネルさまのものに、なりたいんですの。・・・お嫌ですか?」
「まさか! もちろん、私はあなたが欲しい。あなたを自分のものにしたい。・・・それが可能ならば」
「大丈夫ですわ。わたくしも、ライオネルさまが欲しいですわ」
 その言葉を聞いて、私は首都にあるネグリタ家の屋敷にフェリシテを攫って行った。
 
 
 
 
 
 
「ライオネル様!! どちらのご令嬢ですか!?」
 私がフェリシテを抱きかかえて家に入って来たのを見て、執事のロナルドが慌てて私の後を追いかけて来て、私の前に立ちはだかった。恋人がいた時以来15年ほど、女を家に連れてきたことが無い。
 ロナルドはフェリシテを見て、青ざめた顔をした。
 彼女が誰なのか、分かっているようだった。

  

「バーディネー伯爵家の三女、フェリシテ・バーディネー嬢だ」
 私の言葉に、彼は首を大きく横に振った。
「いけません、ライオネル様! フェリシテ様はいけないと、旦那様が仰っておいでです。そんな事をなさったら・・」
「私の妻にする。邪魔はいたすな」
 執事の言葉を遮って自室に進もうとすると、彼は両腕を広げてそれを妨げた。

「こればっかりは、僭越ながらお譲りできません。ライオネル様、先のことをお考え下さい」
「ロベルト。後生だ、通せ」
「なりません。頭をお冷やし下さい」

  
 ロベルトが私に反抗したのは初めてだった。ロベルトは、父が亡くなる前から我が家に仕えていて、私は彼をとても信頼している。少年の頃から我が家に仕えている兄の様な存在の彼が、フェリシテを拒むのが許せなく悲しかった。
「・・・私は、この人を愛しているのだ」
 ロベルトを真っ直ぐに見て言うと、彼は息を呑んだ。
「・・・ライオネル様・・・・・・」
 彼は私が愛に飢えた子供だったことを良く知っている。初恋の少女に裏切られて以来、愛を諦めて生きてきた事も。

  
「・・・そう、ですか。・・・・・・フェリシテ様、どうぞ、ライオネル様を宜しくお願い致します」
 ロベルトはフェリシテに深く頭を下げ、フェリシテは驚きつつも頷いた。
「はい。わたくし、ライオネル様を大切に致しますわ。任せてくださいませ」
 私の腕の中でにっこりと笑うフェリシテをロベルトは驚いたように見つめ、私に深く頭を下げて道を空けた。



  
「ライオネル!! まさか、お前、その娘は・・・!!」
 背後から祖父の叫びが聞こえ、私は振り返った。
「旦那様! お許し下さい!」
 殴りかかるような勢いの祖父を、ロベルトが止めた。
「お察しの通り、この方が私の愛するバーディネー家の三女、フェリシテ・バーディネー嬢です。無粋な事はなさらないで下さい。お祖父様」
 私は祖父を真っ直ぐに見据えた後、自室に入って鍵を閉めた。
 怒鳴り叫ぶ声が聞こえたが、無視してフェリシテを寝台に寝かせた。



  

  

「ライオネルさま! わたくし、ときめいてしまいましたわ」
「そうか、それは良かった。まぁ、後が大変だがな。ネグリタの家名だろうと騎士長の座だろうと、そんなもの、あなたを得られるのなら、どうでもいい」
「ライオネルさま・・・」
「聖騎士爵の家名が無かろうと、騎士長から失脚しようと、付いて来てくれるのだろう?」
 自分で言った言葉に、動揺した。フェリシテが頷いてくれなかったら、私はどうしたら良いのか分からない。  恐る恐る彼女を見ると、フェリシテは真っ直ぐに私を見つめ返して、にっこりと微笑んで頷いた。
「もちろんですわ! 何処まででも、この命尽きるまでお供致しますわ。わたくしも、ライオネルさまが得られるのなら、他に何もいりません。誰にどう思われようと構いませんわ」
「・・・そうか。・・・・・・ありがとう」

  
 涙が出そうになって、私はフェリシテを強く抱きしめて顔を細い首筋に埋めた。

「フェリシテ、あなたを愛している。決して悲しませたりなどしない」
「わたくしも、ライオネルさまを愛していますわ」
 フェリシテは、私の頭を優しく何度も撫でる。安らかな気持ちが心に広がって、私は自然と笑みを湛えた。
「では、本当に結婚してくれるのだな?」
「もちろんですわ」
 優しく口付けて、微笑む愛しい女の顔を見ると、生まれて初めての幸福感に胸が一杯になった。



  
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。・・・わたくしを、どうかライオネルさまの妻にしてくださいませ」
「・・・・・・フェリシテ・・・では、あなたを抱くぞ」
「はい」

 細い首に口付けると、甘い吐息がもれた。その声と、頬を染めて潤んだ目で自分を見上げる表情に堪らなく興奮した。
 そっと脱がせたフェリシテの体は、華奢だったが、骨が見えるほど細いわけではなく、触ると意外なほど柔らかくしなやかだった。それでも、今まで抱いたどの女よりも何処もかしこも細く小さく出来ている。まるで精巧に作られた人形のような、その美しい姿を壊してしまうのが怖いと思うその反面、むちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られた。


 フェリシテは恥ずかしそうに俯いて、どうにか少し膨らみを持つ胸を両手で隠した。
「お姉さま達の半分でも女らしい体でしたら良かったですのに。こんな貧相な体で申し訳ないですわ・・・」
「私は、あなたが欲しいのだ。女の体が欲しいからあなたを抱くのではない。あなたが欲しいからあなたを抱くのだ」
 手をどかせて、そっとその小さな胸を撫でながら言うと、それでも申し訳なさそうな顔をしていた。
「心配されるな。今のままで十分美しい。それでもそんなに気になるのなら、この胸は私が揉んで可愛がって大きくして差し上げよう」
 にやりと笑いながらそう言って、両胸を優しく揉むと、フェリシテは驚いた顔をした。
「ライオネルさまに揉んで可愛がって頂ければ、大きくなるのですか!?」
 くつくつと笑いながら頷くと、私の肩に嬉しそうに抱きついてきた。

「嬉しいですわ。では、沢山可愛がってくださいませ!」
「あなたは可愛いことを言う」

  

 綺麗な桃色の胸の先端を口に含むと、フェリシテは甘い声を上げた。
 その声と表情があまりに可愛くて、征服欲がさらに湧き出てきた。
「あっ・・・・・・あん・・・はぁっ・・・ライオネルさまぁ・・・・・・」
 胸を吸う私の頭を必死に抱いては、体をよがらせる姿は、普段の清純な妖精のような彼女からかけ離れていた。汚れ無き彼女のこんな淫らな女の姿を、私以外は見たことはないだろうという事に、酷く満足する。
「あはぁ・・・ん・・・・・・ライオネルさま・・・ああっ・・・あっ・・・ライオネルさまが・・・可愛がってくださると・・・あっ・・・わたくし・・・あんっ・・・すごく、気持ち良いんですの・・・ライオネルさま・・・ああっ・・・」
「私はあなたの夫なのだから、様などと言わなくて良い。ライオネルと呼んでくれ、フェリシテ・・・」
 そう言って、愛撫を下げて行き、細いが柔らかく滑らかな太股に口付けると、恥ずかしそうに躊躇しながら私の名を呼んだ。
「・・・・・・ライオネル・・・ああっ・・・」

  
 恥ずかしさを堪えて、潤んだ瞳で私を見つめる彼女が愛しくてならない。
「あなたは本当に可愛い・・・フェリシテ・・・・・・」

 そっと脚を割らせて潤んだ秘部にしゃぶりつくと、フェリシテは驚いて叫んだ。
「ライオネル!そんなところを・・・! お止めになって!!・・・ああっ・・・あああっ・・・ライオネル・・・!!」
 フェリシテは体をのけぞらしては、初めての快感に溺れて行った。
 吸って嘗め回し、中に舌を入れて、そっと指で割れ目を開いて突起を刺激すると、彼女は体を痙攣させるようにして艶やかなよがり声を上げ続けた。
 私が与えた快楽に、熱くなって朱に染まった小さな肢体が堪らなく愛しかった。

  

「あぁ・・・っ・・・わたくし・・・どうしてしまったのでしょうか・・・・・・体中が痺れていますの・・・」
「気持ち良いか?」
「・・・はい・・・ライオネル・・・。気持ち良くて、じんじんいたしますの。このあたりが・・・熱くて・・・。すごく気持ちが良くて・・・。ああ・・・・・・もう、おかしくなってしまいそうですの・・・」
 素直な彼女が可愛かった。
「そうか、それは良かった。ここを触ってごらん」
 そう言って、私はしがみついていたフェリシテの手を取って、彼女のとろけた所を自分で触らせた。
「え? あっ・・・これは? ・・・わたくし・・・?」
 彼女は真っ赤な顔で狼狽したように私を見た。
「私のものが欲しくて、あなたの体が出した愛液だ」
「わたくしが出した? あなたの、ものが欲しくて・・・?」

  
  

 私が服を脱ぎ捨てて見せたものに、フェリシテは驚いた顔を真っ赤にさせてそれを凝視した。
 私のものは、彼女を欲して硬く反り上がっている。
「良いか、これがあなたのここに上手く入って気持ち良くなるように、あなたの体が潤滑液を出すのだ」
 私は自分のものを触りながら、彼女のとろけた割れ目の中にそっと指を入れた。その熱さと狭さに、期待と興奮で私のものはドクンッと脈打った。
「あっ・・・!!」
 初めての異物に彼女は驚き体をびくりとさせ、脅えたように私を見た。

 意味を理解すると、脅えた目で私のものを見て大きく首を横に振った。

  
「教科書と違いますわ!!」
「・・・?」
 教科書? 何を言っているのだ、と言う顔で見ると、彼女は真っ赤な顔で続けた。
「生物の教科書で体の仕組みと子供のつくり方を学びましたが、違いますわ!」
「・・・何が、違うのだ?」
「それは、何ですか?」
「・・・男性器だが?」
「教科書の図と違いますわ。生えている方向が逆ですわ」
 私は彼女の言わんとする事を理解して、小さく笑った。フェリシテは本当に愛らしい。
「フェリシテ、教科書に載っていた方向に生えているのだが、性行為をする時、というか、性的に興奮をすると立ち上がるものなのだよ。反対の向きのままでは、あなたの体に上手く入れられないであろう?」

「・・・なるほど、そうですわね。こうやって抱き合えるように反対向きになるのですね。まぁ! すごいですわぁ!」
「解かってくれて良かった」

 さあ、続きをしよう、と私が体を寄せると、フェリシテは急いで体を引いた。
  
「でも、教科書の図と大きさが違い過ぎます! 10倍くらい大きいですわ!!」
「・・・いや、逆向きに立ち上がる時に膨張するものなのだ。私のものも、普段はもっと小さいぞ。・・・それに、流石に10倍は言い過ぎだろう。私が化け物みたいではないか・・・。程好い大きさだぞ?」
 私の言葉を聞いて、フェリシテは神妙な顔つきで私のものを凝視した。そんな顔で見られると、妙な気分だな・・・。

「大きさも変わるなんて・・・男の人の体は不思議なのですね。人体の神秘ですわ」
「男にとってみれば、女体の方が謎だがな」
「でも、とにかくそんなもの、こんなところに入りません!!」
「・・・そんなもの・・・・・・」
 そんな風に言われたのは初めてだぞ。これを見て喜ばない女など初めてだ。軽く自尊心が傷付いたぞ。ムスコがショックで、少し元気がなくなって小さくなったぞ・・・。可愛そうに・・・。私は自分のものを元気付けるように摩って慰めた。

  
「絶対に入りません!」
 そんな事を言われても、ここまで来て、こんなに自分を欲してとろけている所に入れないわけにはいかない。本当に無理なようなら途中で止めるつもりだが、試す前から止めることなど出来ない。ムスコも期待していることだしな。
「大丈夫だ。入るように、あなたの体がこうやってとろけるのだから。女性の体も不思議だろう?私のものを受け入れる準備が出来た証拠だ」
「怖いですわ・・・ライオネル・・・」
「少しずつ入れて、優しくしてさしあげるから、怖がらなくて良い。大丈夫だ」
 脅える彼女を落ち着かせるために、抱きしめて優しく口付けを繰り返しながら、とろみを指に絡ませては割れ目をほぐして少しずつ指を入れた。  
 大丈夫だ、彼女の体は思っていたよりもずっと女のものだ。
 私を受け入れられる、そう確信していた。

 私はもう耐えられないほど苦しい自分のものを、そっと彼女にあてがい、ゆっくりと彼女の中に埋め込んだ。ああ、この瞬間をどれだけ夢見たことか。
  
「あぁっ・・・ライオネル! 痛いですわ! ・・・痛いですわぁ! 怖いですわ!」
 ほんの少し入れただけで、彼女は脅えた顔で涙を浮かべて首を横に振った。
「ライオネル! ライオネル!」
 しがみついて脅えて名を呼ぶ彼女を可哀想に思い、胸が痛んだ。
 だが、苦痛を感じるのは初めだけの辛抱だ。これを乗り越えれば、彼女ももっと快楽を知る事になる。
「大丈夫だ、フェリシテ。痛いのは初めての時だけだからな。徐々に良くなるから、大丈夫だ。愛している、フェリシテ。私を信じて任せてくれ」

 フェリシテが頷くのを確認して、そうっとそうっと、きつく締め付ける彼女に自分のものを埋め込んでいく。
 彼女は涙を流しながら、放心したような虚ろな目で私を見つめていた。
「フェリシテ、全部入ったぞ」
 涙を舌ですくい、そうっと彼女の頬を撫でてその瞼に口付けると、痛みでぼうっと空を見つめていた目に光が戻り、私を見つめた。
「ライオネル・・・」

  
  
 眉を寄せる彼女の額にへばりついた、白金色の絹糸のような髪を掃ってやった。
「苦しいか?」
「・・・はい」
「あなたの体が慣れるまで、しばらくこうして動かないでいるからな」

 辛そうな顔をするフェリシテの唇に、頬に、額に、瞼に、そっと優しい口付けを繰り返す。
 小さな胸を円を描くように両手で愛撫して、頂に優しく舌を這わした。
 フェリシテは小さな声を漏らしながら、時折、私のものをぎゅっと締め付けた。

  
 暫くして、フェリシテが私の頭を抱き寄せた。
「ライオネル・・・」
「大丈夫か、フェリシテ?」
「・・・はい」
 頷く彼女の頭を撫でて、そっと囁く。
「では、少し動くぞ?」
「・・・はい」

 そっと腰を動かすと、彼女は苦しそうな声を上げた。
「あぁっ!! ライオネル・・・!!」
「フェリシテ・・・。苦しいか?」
「はい・・・あぁ!!あっ・・あっ・・・」
 動かす度に、眉を寄せて苦しがる彼女の首筋に口付けて、耳元で囁いた。
「フェリシテ・・・愛している。あなたが堪らなく愛しい・・・」

  
 首筋に愛撫を続けながら、出来るだけゆっくりと腰を動かす。
 フェリシテは、必死に私の背中にしがみついていた。
「ライオネル・・・ああっ・・・」
「・・・フェリシテ・・・!」
 自分の下の小さな彼女が堪らなく愛しかった。
「ああっ・・・ライオネル・・・!!」
 突然、体をのけぞらせて彼女が頂点に達し、私を締め付けた。



  

「・・・わたくし・・・」
 呆然とする彼女の額に口付けて、そうっと頭を撫でた。
「フェリシテ・・・大丈夫か?」
 彼女は、はっとしたように私を見た。
「最後に、あなたがわたくしの中で・・・」
「すまない・・・。あなたが急に締め付けるものだから、堪らなくなって、あなたの中に放ってしまった」
 彼女の体から抜いた時には、もう半分以上私の欲望は彼女の体内に放たれていた。

「気持ち良かったんですの・・・。わたくし、最後に、痛くなくなって、目の前が真っ白になるほど気持ちよかったんですの・・・。最後にあなたがわたくしの中にしてくださって・・・気持ちが良くて、どうにかなってしまいそうでしたわ・・・」
「フェリシテ・・・」
「恥ずかしいですわ」
 シーツで顔を隠したフェリシテを抱き寄せて、シーツをめくって赤く染まった頬に口付けた。

  
「恥ずかしがることなどない。あなたが、私によって気持ちが良くなることほど嬉しい事はないのだから。・・・だが、これからはきちんとあなたの中に入れる前に避妊具を着けることにしよう。今日は急で用意が無かったからな・・・」
 私は眉を寄せた。フェリシテの体が妊娠出来ないのか妊娠したら命が危ないのか分からないが、避妊するに越した事はないだろう。
「避妊具?」
「あなたの体内で私の欲望を放ってしまっては、子供が出来てしまう危険性があるからな」
「わたくしの中にくださいませ。わたくし、あなたが全部欲しいんですの」
 私はフェリシテの言葉に驚いて首を横に振った。
「駄目だ。妊娠などしてしまったら、あなたの命に関わるであろう?」


  
 フェリシテは少しの沈黙の後に、静かに言った。
「・・・わたくし、子供を産みますわ。夢を見ましたもの」
「夢? ・・・夢とは寝ている時にみる夢のことか?」
 意味が分からずに、私は眉を寄せる。
「ええ。わたくし、時々未来に起きる事の夢を見ますのよ。太陽の子と月の子と、元気な男の子を二人生みますの。もう何年も見ている夢ですの」
「太陽の子と月の子?」
「名前が分からないので、そう呼んでいますの。それぞれの印象と、首から提げている小さな剣の形からそう読んでいますの」

「小さな剣・・・!?」
 私は息を呑んだ。

  
「ええ、ちょうどあなたの、この首飾りと同じような首飾りですわ。剣に太陽と月の飾りが付いていますの」
 フェリシテは無邪気に笑って、私の獅子の飾りの付いた小さな剣の首飾りに触れた。
「・・・それは、真か・・・?」
「ええ。私の生む息子達の父親は誰か分からなかったのですけれど、きっとあなたの子ですわ。一人はわたくしの髪と目の色を濃くした色ですが、もう一人は、あなたと同じ髪とあなたの目の色を少し薄くした目を持っていますもの。二人とも、きっとあなたの子ですわ」
 私の心臓の鼓動は、興奮でドクドクと速まっている。

「だが、子は産めぬ体なのであろう?」

「医者の言うことなど信じていませんわ。なんせ、私を生まれた時に育たないと判断したのですから」

「だが、子供は産めないと・・・」
「わたくし、子供を産む道具ではありませんもの。子供を産めなくても愛してくださる方になら、命をかけられると思いましたの」
 にっこりと微笑むフェリシテを、私は呆然と眺めた。フェリシテが、私の子を産んでくれる? そんな幸運があって良いのだろうか? そんな都合の良いことが……。

  

「どうか、これからも、わたくしの中にしてくださいませね? あなたとの可愛い息子を、この腕に抱かせてくださいませ」
 私を抱きしめたフェリシテを抱きしめ返しながら、私は恐怖に襲われた。

「・・・駄目だ。あなたを失うのが怖い」   
 この人を、失っては生きて行けない。子供は欲しいが、フェリシテを失う可能性があるのならいらない。
「大丈夫ですわ。わたくし長生きしますわ」
 フェリシテはくすくすと笑って、恐怖に強張った私の顔を優しく撫でた。
「それも又、夢に見たと言うのか?」
「ええ。沢山の孫に囲まれている夢も見ましたの。7、8人いましたわ。うふふ」
「二人の息子から7、8人とは凄いな」
 我が家は子供の数に恵まれていない。それが子を産めないと医者に言われているフェリシテによって子孫の数を増やすなど、信じるのは難しかったが、フェリシテの楽しそうな笑顔に、信じてみようと思った。
 この人は、女神に愛された奇跡の様な人なのだから。

  
  
「そうか、太陽と月か・・・。この首飾りはな、ネグリタ家の男児が生まれた瞬間に握らされるものなのだ。誇り高き騎士になれる様に、大切なものを守れる剣技を持てるように、この首飾りに託された思いが戦場でその身をまもってくれるように、と」
 フェリシテは私の言葉に、目を丸くした。
「まぁ! では、本当にわたくしたちの息子達ですのね! すごいですわ!」
「まさか、そんなことが・・・。あなたが私の子を産んでくれるなど、幸せ過ぎて怖いくらいだ」
「大丈夫ですわ、ライオネル。わたくし、きっと丈夫な息子達を産んでみせますわ。信じてくださいませ」
「フェリシテ・・・。ああ、分かった・・・あなたを信じよう」
「嬉しい!」
 ぎゅっと私を抱きしめると、フェリシテは幸せそうに目を閉じた。

  
「ねぇ、ライオネル・・・。もう一度、わたくしの中にしてくださいませ。とっても気持ち良かったんですの・・・お願いですわ」
「そんな風に可愛くおねだりされては、断れないではないか。あなたは困った人だな」
「うふふ」

 する度に彼女の体は私を受け入れる事に慣れてきて、快楽によがっては甘い声を上げる彼女を私は夢中で愛した。そして彼女が望むままに、何度も彼女の中に全ての欲望を放った。
 
 
 
 
 
 
「頭が冷えるまで、帰ってくるな。好色の騎士長が、バーディネー伯爵家から成人したばかりの病弱な令嬢を攫って無理やり手篭めにしたという噂で持ちきりだ。騎士長の座も危ういぞ。なんという事をしたのだ! ネグリタの名に泥を塗りおって!!」
 祖父は我々を許しはしなかった。
  

「お祖父様が望むなら、ネグリタの名を取り上げてくださって結構です」

「ここまで育ててやった恩をあだで返すとは!」
「それは申し訳ないと思っています。ですが、後悔はしていません。聖騎士爵の家名や騎士長の座よりも欲しかったものが手に入ったのですから」
 私の言葉に、祖父は忌々しそうにフェリシテを見た。年を取り始めてより一層迫力のある元騎士長に睨まれても、フェリシテは臆することなく真っ直ぐに祖父を見詰め返した。私はそれを見て、益々フェリシテに惚れてしまった。


「この人は、私が何者であっても、私を愛してくれる唯一の人です。決して手放しなどしません」

「子も産めぬ女を嫁になど、認めぬぞ」
 フェリシテが子を産めるかもしれないということは、言わないでおいた。子を産めなかった時に、ほらみたことかと責められるであろうから。
  

「では、私はネグリタの名を捨てましょう。認めていただけるまで、お会いする事もありません。敬愛なるお祖父様、どうかお元気で」
 私はフェリシテの手を取って立ち上がった。

「騎士長の座も失ったらどうする気だ?」
 向かい側のソファーに座ったまま、祖父は私を睨んだ。

「騎士隊長から失脚しても騎士隊で職があるでしょう。騎士隊からも追い出されるようならば、どこか他の国へ移りましょうか。私の剣の腕ならば、すぐに職は見つかるでしょう。フェリシテは何処へなりとでも付いて来てくれると言いますから」
 私が真っ直ぐに祖父を見据えて言うと、祖父はフェリシテを睨みつけた。



「跡継ぎの大切な孫をたぶらかしよって!! この魔女めが!!」

「私の妻を侮辱するとなれば、お祖父様とて許しません」
 私が祖父を睨むと、フェリシテが私の腕に手を掛けた。

「ライオネル、良いのですわ。ガウェイン様の言い分の方がもっともですわ」
 その言葉に私と祖父はフェリシテを見る。

「申し訳ありません、ガウェイン様。ライオネルを諦められないわたくしが悪いのだと解かっております。それでも、わたくしは、この方を愛しているのです。どうしても、この方に魂を捧げたいのです。」

「おぬしは・・・」
 祖父は睨むのを止めて驚いたようにフェリシテを見た。フェリシテは深々と祖父に頭を下げ、私は彼女を抱き寄せて、扉に向った。


「その娘を聖騎士城へ連れて行くつもりか?」
 扉に手を掛けたところで、後ろから声が掛かった。祖父は怒りを静めたのか、静かな声だった。振り返った私も静かに言った。
「正式に決断が下るまでは、私が騎士長ですから。聖騎士城は私の城だ。どうにでもなります」
 
 
 
 
 騎士隊の理事長は、私が騎士見習いとして付いて学んだキーファー・ブラヴォド様だった。キーファー様はキアヌの父上で、私を幼い頃から可愛がって下さった方だ。今回の件でも私を庇って下さり、私はどうにか騎士長のままでいられる事になった。

 フェリシテは、初めて私に抱かれてから二月もせずに身篭った。身篭っている病弱な娘を手元に置いて置けない事が心配なフェリシテの両親は、私との仲を許すからとフェリシテを説き伏せて、彼女を聖騎士城からバーディネー家に引き取った。私はフェリシテと離れ離れになって死ぬほど寂しかったが、彼女の体を一番に思って我慢する事にした。

  
 フェリシテは彼女の見た夢の通り、彼女のものを濃くした髪と目の色を持つ元気な男子を産んだ。太陽の飾りの付いた白金の小さな剣を、息子は小さなその手にしっかりと握った。私の祖父も、それで我々の仲を認めた。
 フェリシテの回復は遅く、1年経ってどうにか屋敷から出られるようになった。それまでは、彼女が私を残して逝ってしまうのではないかと、気が気では無かった。息子は目に入れても痛くないほど可愛いが、もう二度とこんな思いには耐えられない。息子は一人で十分だと思った。
  

 険悪だったバーディネー家との仲も、フェリシテが回復するに連れて良くなり、最終的には、結婚することもできないと思っていた娘が、結婚して子供を産めた事に、感謝されるまでとなった。
 バーディネー伯爵家としても、ネグリタ聖騎士爵家と、騎士長を首にならなかった私と、手を組めた事は非常に有意義なわけで、フェリシテを得て以来浮名を一切流さなくなった私は、バーディネー家ですっかり良い待遇を受けるようになった。

  
 体が回復すると、フェリシテはバーディネー伯爵領土から出て、首都のネグリタ家で過す時間を増やせるようになった。
 フェリシテのことを、私をたぶらかした魔女と罵った祖父も、フェリシテ譲りの天使のような微笑を持つ曾孫の可愛さにすっかり心を奪われ、今ではちゃっかりフェリシテの事も溺愛している。そこまで溺愛しなくても良いと思う程だ。

  

  

  

 我々の結婚騒動は国中の話題になり、いつまで経っても面白おかしく話題にされるが、愛する妻と息子を想えば気にもならなかった。寧ろ、自慢したいくらいだった。
 あれだけ女泣かせと名高かった私が、もう一生、フェリシテ以外の女を抱くこともない。人々がそれに驚き、色々と揶揄することが、逆にとても誇らしかった。


 ふと、幼い時に父が読んで聞かせてくれた物語を思い出す。
 あまりはっきりとは覚えていないが、たしか、妻の不貞を見て女性不信となった何処かの国の王が、国中の女を一晩抱いては、裏切られる前に殺していく事を止めるために、大臣の賢い娘が王の妻になった話だ。

  
 その賢い女が毎晩面白い話を話して聞かせるため、続きが気になる王は彼女を殺せずに千一の夜を彼女と過ごす間に、彼女との間に子をもうけて、最後には彼女と子供たちを愛すのだ。その王妃の話した多くの冒険話は本当に面白く、幼い私も続きが気になって、よく父にねだったものだった。

 女に裏切られるのが怖くて、女を手当たりしだい一晩抱いては捨てていくなど、何やら私の話のようではないか。

  
 私にも、もう一晩限りの関係など必要ない。
 貴女を、心から信じることが出来る。
 貴女は、決して私を裏切りなどしない。
 私は、決して貴女を裏切りはしない。
  
 愛しい貴女とならば、千の夜も万の夜も飽きることなどない。
 貴女は私が何者であっても愛してくれる。
 私は貴女が何者であっても愛している。
 ずっと側にいて支えて欲しい。
 ずっと側にいて貴女と息子を守りたい。
 幼い頃からずっと欲しかったものを、私はやっと手に入れることが出来た。



  
 貴女に会えぬ一夜は、まるで千の夜の永遠。
 貴女を抱いて眠る一夜は、まるで千の夜の幸福。

 千の夜も万の夜も越えて、命果てるまで。

  

 いつまでも、その微笑を。
 必ず、この手で守ってみせる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 了 
―2007年8月30日―

 

  

―後書きのようなもの―
 ライオネルとフェリシテの容姿の設定を考えるためにイメージイラストを描いて、ふと、「千夜一夜」という題名が頭に浮かびました。
 適当に描いたライオネルの剣が、なんとなくアラビアンナイトなイメージだったのかもしれません。(謎)
 ナイト(騎士)だし。(いや、意味違うから。騎士じゃなくて夜だから。)
 本当はアラビア語でone thousand and one nights(数え方が英語と同じ)みたいです。
 1001の夜。だから正しい日本語訳は「千一夜」でこの訳の本もありますよね。でも「千夜一夜」の方が断然素敵だと私は思います。
 密かに私は「千夜一夜物語」ではなくて、ずっと「一夜千夜物語」と覚えていました。
 一夜が千夜のように面白く思える話を、王妃がしているのだと勝手に解釈していました。
 千夜ほど凝縮された一夜なんだな! すごいな! と……。
 そんな勘違いが自分で可笑しかったので、そのアイディアを組み込みましました。
 
 
 
 
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